二人の、晴矢と杏の間にあるものは喧嘩だった気がする。必ずと言うわけではないけれど、目を合わせれば、何か言えば喧嘩が始まっていた。きっと周りの皆も迷惑していたに違いない。
 別に晴矢は杏が嫌いで喧嘩をしていた訳ではない。むしろ杏の事は好きだった。もちろん友情の意味ではなく、男女として、恋愛としての意味で。つまり彼は素直になれないだけなのだが。

「だからって晴矢のはおかしいと思うよ」
「う……」

 向かい合って座るヒロトが遠慮なしに言う。あれは素直になれないだとかそんな話ではない。もはや彼らの習慣に近いとヒロトは思っている。それを要約して率直に言っただけなのだが、本人にはキツいお灸だったらしい。

「……いや、それくらい俺だって分かってるけどさ」
「だったら好きだって言えばいいじゃないか」
「お前と一緒にすんな」

 晴矢に対して、ヒロトは好きな人にはとにかく「好きだ」と言う、かなり積極的な性格だ。そんなまっすぐなヒロトを、晴矢は微かながら羨ましいとは思っている。素直になれない自分とは正反対の彼に。決して、彼はヒロトの性格すべてを羨んでいる訳ではないが。(むしろ一部嫌悪すら抱いている)

「よし、じゃあ俺が手を貸すよ」
「いやだ」
「遠慮しなくていいのに」
「遠慮じゃねーし!気付けよ!」
「文句は受け付けないよ」

 その後、ヒロトに振り回され、街を駆けずり回る羽目になった。夕方、お日さま園に着いた時には、もう疲労困憊で倒れそうだった。
 ちらりと、左手に持った箱を見る。ヒロトに無理矢理入れられたケーキ屋で、店員の笑顔(それもかなりにこやかな)に耐えながら、どうにか買ったショートケーキとチョコレートケーキが入った箱を。無難な物を選んだが、杏は喜んでくれるだろうか。少し期待しながら、玄関を開けた。

「ただいま……」
「おかえり……って、ひどい顔」
「うるせー。疲れてんだよ」

 いつものように憎まれ口をたたくが、心の中では緊張やら不安やらでドキドキしていた。

「あのさ……ケーキ食べるか?」
「晴矢が買ってきたの?うわー、明日は雪確定だ」
「オイ、人が折角買ってきたんだぞ!少しは感謝しろよ。やらねーぞ」
「あーもう、ごめんってば!……その、ありがとね」

 少し頬を染めて杏が言う。なかなか自分の前で見せない表情に、晴矢は思わずどきりとした。
 紅茶淹れてくるね、と言って杏は台所に行く。憶測ではあるけれど、いつもよりは素直に話が出来るかもしれないと思った。彼女も、ケーキのおかげで少し機嫌が良いだろうから。


2011107

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