※ちょっとだけヒロ→玲前提でねつ造
「はい、もしもし」
とある日の午後、お日さま園の電話が鳴った。瞳子は砂木沼を連れて外出中で、出かけ際に「お願いね」と任されたこともあり、玲名がこの日の電話番をしていた。
もしもし、の後に「吉良です」と言えばいいのか「こちらお日さま園です」や「八神です」の方がいいのかと少し悩んでしまう。その間に相手の声が聞こえた。
「もしもし、円堂です」
「!」
思わぬ電話の相手に受話器を手放しそうになる。何故円堂がお日さま園に電話をかけてきたのだろう。疑問に思いつつも、とりあえず「はい、こちらお日さま園です」と堅苦しくはなったが返事をした。
「あ!えーっと、もしかして……ウルビダ?」
「声だけで判るのか」
「いや、ちょっと聞き覚えがあったなーと思って。間違えてなくてよかった」
ははは、と円堂が笑う。
まさか円堂が覚えているとは思わなかった。玲名はテレビで彼の姿を何度となく見ているが、実際もう数ヶ月も会っていない。ジェネシスの中の一人というだけで、名前などとうに忘れているものだろうと考えていたのだ。
「で、用件は何だ?」
「あ。瞳子監督、じゃなかった。瞳子さんは?」
「出かけている」
そっか、と残念そうな声が返ってきた。感情の起伏が激しいらしい。
「伝言なら聞くぞ」
「分かった。明後日、ライオコット島に行くことになったんだ」
「明後日、か」
お日さま園の所在地は都外だ。だから雷門に行くのも中学生の自分にはなかなか出来ない。結局アジア予選の間、そこに陣中見舞いに行くことはかなわなかった。
同じ国内でさえそうなのに、国外ならばまた暫く会ないのだろうなと考える。
「でさ、よかったらそっちのみんなに見送りに来てもらえたらなって思って」
「見送りか……」
「みんなが無理だったら、何人かでもいいし。けど、無理に来る必要もないから」
円堂は相変わらず笑っているのだろうと思った。瞳子に頼んだら、明後日の自分は空港にいることは出来るのだろうか。もしかしたら、叶わないかもしれない。でも、行きたいとは思う。
「分かった。姉さんにはしっかり伝えておく」
「そっか、ありがとな。あ、あとヒロトからも伝言預かっててさ」
「伝言?」
円堂がお日さま園に電話をすると聞いて、ヒロトが円堂に頼んだらしい。自分で言えばいいものを、と玲名は思ったが、内容を聞いて何となく理解をした。
「玲名に会えるようにしてくれ、だってさ」
「ふっ、くくく」
「何で笑ってるんだ?」
円堂はどうやら気付いていないらしい。ヒロトから『ウルビダ』の本名は聞かされていないのだろう。
「八神玲名」
「ん?」
「私の本名だ」
「……えぇ!?」
電話口から響く円堂の驚く声に苦笑しつつも、玲名は瞳子の返事に少し期待したくなった。明後日ヒロトと顔を合わせたら、彼は一体どんな顔をするのだろうか。
20110907
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