じわりと背中から溢れる汗に、夏未は顔をしかめた。夏未は、決して初夏や夏が嫌いな訳ではない。むしろ、この時期の日に照らされる水面の輝きが夏未は好きだった。だが、炎天下の日に、何もせずに突っ立っていることほど辛いものはない。じわじわとコンクリートから跳ね返る熱に、夏未の眉間に皺が寄った。
この日は、間近に迫ったプール開きの為にサッカー部がプール掃除をすることになっていた。、雷門のプール掃除はクラスではなくどこか一つの部活がすることになっており(生徒数の多い雷門ではそちらの方が都合がいいらしい)、今年の担当がサッカー部だからである。今日は部活もなく授業も早く終わる日だから都合がいいのだろうが、日も傾かないうちに行っているせいで午後の日差しは未だ強く、たとえ日傘を差しているとはいえどプールサイドで待機している夏未には地獄そのものだった。

「夏未ー、大丈夫か?」
「ええ、大丈夫よ」

ホースでプールの汚れを流しながら円堂が問いかけた。本当は暑さでかなり参っているのだが、心配をかけまいと夏未は少し強がった。そもそもプール掃除をせずにこうして立っているのは、自分が汚れたプールに入るのを躊躇ったからであり、一人校舎に戻るのも気が引けたからだ。同じマネージャーである秋と春奈は男子に混じってしっかりプール掃除をしていたから余計にそう思った。

「…よし、もういいかな」
「終わったのかしら?」
「ああ。じゃあ、プール掃除終わり!鍵は俺が閉めてくから、先に帰ってていいぞー!」

その声を皮切りに、部員達は暑かったとか疲れた等と言ってぞろぞろとプールの外へ出て行った。夏未も戻ろうと出口に向かうと、何を思ったのか、円堂が夏未を引き留めた。

「三分で帰ってくるから!だからここで待っててくれ」
「えっ、どうして…」

夏未の問いかけにも答えず、円堂の姿はみるみる遠くなり、体育館の角をさっと曲がって見えなくなった。

「本当、自分勝手な人ね」

差していた日傘を閉じ、二人入るのがやっとの広さの日陰に入り円堂を待つ。三分という時間は何もしなければ存外長いもので、だんだんと待ちきれなくなったのか、コツコツと地面を爪先で叩き始めた。しばらくすると、遠くからせわしない足音が聞こえて、その足音の主は滑り込むように夏未の所まで走ってきた。

「全く、こんな中人を待たせて、あなたは何をしてたの?」
「これ、買ってきた…」

円堂が息を切らせながら夏未の目の前に差し出したのはソーダ味のアイスバー。普通のものより少しサイズの大きな袋には、棒が二つついたアイスが描かれていた。

「気い遣わせたみたいだから、お詫びにと、思って…。これ、二つになるやつだし、一緒に食べようかな、なんて」

へへっ、といつもの様に笑う円堂に夏未は、仕方ないわねとでも言うように少し息を吐いて「いただくわ」と言った。それを聞いて円堂が嬉しそうにするものだから、頬が熱をもつ。

「じゃ、食べるか」
「ええ」

円堂が袋を開けてアイスを取り出し、パキリと二つに割る。夏未は受け取ったそのアイスを空にかざした。青く澄んだ空より幾分か薄いブルーのそれを、隣にいる円堂と一緒に食べようとしている。勿論、二人だけで。それがとても特別なことの様で、自然と笑みがこぼれる。少しの間そのままでいると、「食べないのか?」と円堂に聞かれた。

「早く食べないと溶けるぞ?」
「分かってるわ」

お嬢様の夏未にとって、アイスは一つ二百円はするあれが常だったから、バーアイスをかじるのは少々気が引ける。けれど、一口でその気持ちは飛んだ。

「うまいよな、これ」
「そうね。…いっぺんに食べると頭が痛くなりそうだけど」
「はは、確かに」

爽やかなソーダの味が、汗も何もかもを空へ飛ばしていった気がした。もしかしたら、またこのアイスを買うかもしれない。その時も彼と二人で食べることが出来たなら、きっとそれだけで。

20110804

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