「あっ」
首に噛みつくと、君が苦しげな顔をするもんだから、もう限界。
ダメだって、煽らないでよ。ウブなフリして、実は僕のツボを全部知ってるんでしょう? ねえ?
首に開いた、小さな二つの穴から垂れてくる血を丁寧に舐め上げる。一滴だって、床に吸わせてやるつもりなんてない。
舐めつつ、彼女の表情をそっと窺った。
はあはあと荒い息を吐きながら、遠い目をしている。冷や汗もひどくなってきた。きっと、今の彼女の脳内は、氷で冷やされたように冷たくて真っ白に違いない。
「ねえ、」
首から僅かに口を離して話し掛けた。あ、ちょっと瞳孔が動いた。まだ、耳は聞こえるっぽい。
「死んじゃうの?」
そんなこと聞かれても、みたいな困惑を感じ取れた。表情筋はあんまり動いてないけど、雰囲気からして大体は解る。
「僕はさ、死んでほしくないなあ」
まだまだ貪り足りないんだもの。ここであっさり失うのは惜しい。
理由は不純であれ、死んでほしくない気持ちには変わりないよ。
「生きたい?」
頷く元気は無かったみたいだけれど、その代わりに、一つゆっくりとまばたきをした。
その返事を合図に、僕は自分の腕に噛みついた。しばらくすると、じんわりと血が顔を覗かせてくる。腕の輪郭に沿って、たらりと流れる。
「飲んで」
彼女の口元まで腕を持っていく。
彼女は何のことやら理解できないようで、ぼんやりと僕の腕を見つめていた。
「垂れちゃうよ。早く、口開けて、」
また、瞳孔がちょっと動いて、口が小さく開けられた。
僅かな穴に流し込むのは至難の業だったけど、なんとか上手くいった。
血は静かに彼女の体内へと吸い込まれていく。その状況を改めて認識したら、少し興奮してきた。ああ、ヤバい、かも。
「飲めた?」
彼女は返事しなかった。多分、自分の中の変化に驚いて、返事する余裕すらないのかもしれない。
「大丈夫、僕とお揃いになるだけだから」
そうすれば、彼女はずっと僕のもの。いくらでも貪ってあげる。
君はどう思ってるのかなあ? 相思相愛だと素敵なのだけれど。
僕は、彼女の躯が変化していくのを、ただただ見つめていた。

お還りなさい

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