「……何?」

依然握られたまの手首。
さすがの俺も一段と声色が低くなって眉間に皺を寄せる。
自分でも無意識だったのか、困惑した表情のそいつと目が合った。

「…運命、感じませんか?」

なんだ、その口説き文句は。
歯を出して笑ったと同時に、掴まれていた手首が放された。
千秋は興味がないのか、ポケットから携帯を取り出してなにやらしている様子だ。

くそぅ、他人事だと思って。

「あのさ、俺にどうして欲しい訳?」
「…髪、切らせて下さい!」

子供のように目をキラキラと輝かせ、興奮した様子で頭を下げてきた。
こんな人通りも多い場所で、堪ったもんじゃない。

「わ、わかったから!」

わたわたと格好悪く慌てつつ、そいつの頭を無理矢理上げさせる。

なんつーか、諦め悪そうな奴だし。
あれ?コイツ、名前なんだっけ?

そんな疑問を頭に浮かべながら小さく息を吐き出した。

「あ、そういえば、お名前…」

気まずそうに聞いてくる目の前の奴。
今更自己紹介をするのかと思ったらなんとなく可笑しくなってきて吹き出してしまった。

「っふふ……俺は、鳴海幸福」
「鳴海、幸福…さん」
「うん。よろしく、ポチ」

俺の名前を嬉しそうに呼ぶそいつに向かって手を差し延べる。

「…ポチ?」
「そ。お前犬っぽいから」

有無を言わせないように爽やかな笑みを浮かべたら、何も言えなくなるポチ。
ポチも手を出して、差し出した俺の手をギュッと握った。



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