話掛けられたものの、何も反応することが出来ない。

「…幸福、誰?」

横にいた千秋が、不躾に金髪のそいつを指差しながら聞いてきた。

…つーか、俺が聞きてぇよ。

「…知らない」

そう答えると、呆れたように口を開く千秋。
すると、目の前にいた金髪が、その金色の髪ををガシガシと掻きながら苦笑した。

「あ、初めまして!俺、三澤沢っていいます」

今度は、無邪気な笑顔を浮かべるそいつ。

「で?…昨日のはなんだった訳?」

とりあえず、昨日の出来事を思い出して単刀直入に聞くことにした。
俺が質問をすると、次は申し訳なさそうな顔になる。

すげぇ百面相。
まるで犬みたいだ。

「あ、昨日はすみません!あまりにも綺麗な髪だったから…」
「髪?」

そいつの発言でますます意味がわからなくなる。
なんで髪が綺麗だったからって男に告白するんだよ。
第一、綺麗でもない。

「はい。俺、美容師目指してるんですけど、あなたがあまりにもタイプの髪質だったから切ってみたいな〜とか思って」

相変わらず苦笑いを浮かべるそいつ。
チラリと隣に目線をやると、俺と同じくキョトンとしている千秋がいた。
このよくわからない状況に困惑しつつ、俺は口を開く。

「とりあえず、わかった。…じゃあ」

気の利いた一言でも言えればいいんだろうけど、生憎何も思い付かない。
あからさまな作り笑いを浮かべてその場を去ろうとしたら、手首をガシッと掴まれてしまった。



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