倉持洋一の憂鬱


私の一件があってから、野球部に群がる女の子達はいなくなった。何でも、御幸君から話を聞いた小湊先輩がなにかしたらしい。俺達はアイドルじゃない!と言ったのではないかと私は思っている。


次の日に、小湊先輩や伊佐敷先輩が謝りに来て、先輩達のせいじゃないですから、と笑うと、二人とも笑ってくれた。


明日美ちゃんは、朝学校に来るなり私の心配をしてくれて、あたしがいない時を狙うなんて!と悔しそうにしていた。


「御幸君が助けてくれたから大丈夫だよ。」


そう私が笑うと、それなんだよ!と明日美ちゃんは顔をしかめた。


「御幸はね、そんなことがあっても、絶対に女の子を助けるヒーローみたいなやつじゃないの!俺には関係ないなんて知らんぷりする最低野郎だからさ。絶対あいつ美加に見返り期待してるか、それか美加のこと…」


「俺が何だってー?」


明日美ちゃんが熱く語っていると、御幸君がニコニコしながら私達の間に入って来た。


「おはよう、御幸君。」


「おはよ!あ、さては昨日の俺の大活躍ぶりを話してたの?いやー参っちゃうなぁ。」


御幸君はそう言いながら大きく笑う。すると明日美ちゃんは


「ふざけんなクソ御幸!美加に何か期待してんなら無駄だからね!」


と机をバン、と両手で叩いた。御幸君はへいへい、なんて流していたけど、私は微妙に怖かった。


それにしても。


いつも来るはずの人が来なくて、私は教室の扉を気にしてしまう。私の様子に気づいた明日美ちゃんが、どうした?と声を掛けてきた。


「いや、倉持来ないなって…。」


私がそう言うと、明日美ちゃんは確かに、と驚いた顔をした。


「まぁ、倉持は倉持なりに責任感じてるんじゃない?だから美加に顔合わせづらいとか。」


明日美ちゃんがそう言うと、御幸君が


「倉持が?ないない!」


なんて笑い出した。そんな御幸君を明日美ちゃんは蹴飛ばして、倉持はお前ほど性格悪くねぇよ、と怒った。御幸君の言う通り、そんな倉持はちょっと気持ち悪いし、ないと思うけど、でも明日美ちゃんの言う通り、御幸君よりはまともだと思う。


結局倉持は来ないまま、その日は放課後になった。


別に倉持の事なんか気にしなくてもいいのに、なんか気になる。


明日美ちゃんに帰ろう、と言われ、私は教室を出た。


まだこの時間は野球部は練習をしていないようで、グラウンドはとても静かだ。


「ねぇ、明日美ちゃん。」


「何?」


「また、部室の裏行きたいなー、なんて…」


と私が言うと、明日美ちゃんは仕方ないな、と笑った。



部室の裏に着くと、グラウンドにはやっぱり誰もいなかった。倉持の姿を見ない一日って、なんだかすごく違和感があって、一目でいいから倉持の姿を見たら帰ろう、


と思っていたら、


「あ、」


なんて聞こえて、そこには倉持が立っていた。


明日美ちゃんが、何で倉持こっち来んの、練習なら逆だけど、と言うと、時間あるからちょっと考え事だよ、と倉持は視線をそらして言った。


しばらくそのまま沈黙が続くと、倉持が、


「悪い、小湊、ちょっと外してくれ。」


なんて言った。明日美ちゃんはニヤッて笑って了解、とそのままどこかへ行ってしまった。


明日美ちゃんがいなくなってからも倉持は黙ったまま。倉持?と声をかけると、倉持は部室にもたれて座ったので、私も同じようにして倉持の隣に座った。


「あ、のよ…。」


倉持が話しはじめる。


「その、悪かったな、俺のせいだろ。」


と倉持は俯き加減で言った。


「別に倉持のせいじゃないよ。」


私がそう言うと、


「でも御幸に、お前リンチしようとしたクソアマの中に、俺の名前出した奴がいたって聞いたし…。」


クソアマって…。


「それ気にして、今日は来なかったの?」


「…悪ィかよ。」


倉持はそう言ってうずくまる。こんなに元気のない倉持を見たのは初めてで、とにかく何か言わなくちゃ、と私は話しはじめた。


「大丈夫だよ、結局何ともなかったし。」


私がそう言うと、倉持は顔をガバッと上げて、


「それは、御幸がいたからだろ!?」


と言った。


「そ、そうだけど」


「もし、またもう一度同じ事が起きたとして、絶対に誰かが助けてくれるなんてそんなのわかんねぇじゃん。だったら、もう一度同じ事が起きないようにするしかねぇじゃん…。」


倉持はそう言ってまた俯いた。


倉持は倉持なりに、私の事を考えてくれたんだ。







嬉しいな。







私は倉持の頭をわしゃわしゃと撫でる。倉持はいきなりのことに驚き、や、やめろ、と私の腕を掴んだ。


「倉持、ありがとね。でも、私大丈夫だからさ!」


「だから大丈夫じゃねぇって…」


「それなら倉持がずっと側にいてよ。そしたら安心でしょ?」


私はニコニコしながら言う。倉持は驚いたような顔をして、いきなり顔を赤くした。
「倉持?」


私がそう声をかけると、倉持ははっと我に返ったようで、


「おおおお俺に任せとけよ!」


なんて言った。


「なにそれ。」
「うるせ。」


二人で笑い合う。なんだか昔に戻ったみたいで懐かしい。


ねぇ、倉持覚えてる?なんて昔話をしようとしたら、


「ぬわー!倉持先輩が女の子とイチャイチャしてるー!」


なんていきなり大きな声が聞こえた。見てみるとそこには男の子が興奮した様子で立っていた。倉持はその男の子を見ると、


「沢村ァァァ!!」


と怒鳴った。男の子はビクッと跳ね上がる。男の子の後ろからは、また違う男の子が出てきて、栄純くん、ダメだよ、なんて慌てていた。


倉持が男の子に詰め寄ろうとすると、逆の方からうわっ、と声が聞こえて、明日美ちゃん、御幸君、伊佐敷先輩、小湊先輩、結城先輩が雪崩ていた。


「え!?」


私の驚いた顔を見た明日美ちゃんは、気まずそうにしてから


「…ごめーん、全部聞いちゃってた。」


と笑った。


「全部?」
「全部。」
「最初から?」
「最初から。」


明日美ちゃんの後ろでは、純が押すから、亮介だって押してただろ、なんて声も聞こえてきて。







「………お前らァァァ!」







倉持がそう皆を追いかけようとすると、小湊先輩に、お前?と黒く笑われて、あ、いや、なんて固まっていた。







理想の生活とは違ったけど、でもこんな生活も楽しいな、と皆を見て思う。








この日を境に、私、明日美ちゃん、御幸君、倉持の四人で集まる事が多くなった。






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