可愛い後輩と弟 学食でお昼ご飯を食べようと四人で移動していると、後ろから姉ちゃん、と小さな声がした。 私には兄弟なんていないから、明日美ちゃんかな、と見てみると、 「春ー!」 と明日美ちゃんは私達の後ろにいた男の子を抱きしめていた。 何もわからず唖然とする私に、倉持がコイツ、小湊の弟、と教えてくれた。 明日美ちゃんに抱きしめられている男の子は、姉ちゃん、恥ずかしいよ、と暴れているけれど、明日美ちゃんはそんなのお構いなしにずっと抱きしめている。 やっと明日美ちゃんが男の子を離すと、男の子は明日美ちゃんに全く…なんて溜め息をついた。そしてふとこちらを見ると、こんにちは、と挨拶をした。 「僕、小湊春市といいます。いつも姉がお世話になってます。」 「私は青山美加です。よろしくね。」 お辞儀をする小湊君につられて、私もお辞儀をした。それにしても礼儀正しくていい子だなぁ。きっと、小湊先輩がよく面倒をみたんだろうな、明日美ちゃんじゃなくて。 なんて思いながら小湊君を眺めていると、 「ちょっとちょっと!美加、そんなに春のこと見つめちゃってさ!言っとくけど、春は美加にだって渡さないからね!」 と私に向かって怒りはじめた。 「美加が倉持と付き合おうが、御幸と付き合おうが関係ないけど、春と付き合いたいなんて思った日には私が黙ってないから!春には絶対手出しちゃダメ!あと、哲さんにも!」 明日美ちゃんは言いたい事だけ言うと、私にどうだ!、なんて言わんばかりの表情を向けてくる。 「だ、大丈夫だよ。私、明日美ちゃんにそこまで言われて知らん顔できるほど根性ないから。」 私がそう言うと、明日美ちゃんはニコッと笑って、それでよし、と私の頭を撫でた。 明日美ちゃんは小湊君が大好きなんだね、と言うと、めちゃくちゃ大好き!だって可愛いんだもん、と笑った。 すると、 「あ!春っち!」 と声がして、男の子が近付いて来た。が、こちらを見てゲッ、とすごく嫌そうな顔をして後ずさりした。 「よぉ、沢村ァ」 倉持はそんな男の子に悪い笑い方をして近付いていく。 「後ずさりなんかしちゃってどうしたんだよ?」 御幸君もニコニコしながら近づく。最近気付いたけど、御幸君や倉持が笑っているときは大抵よくないことを考えている。 あの子誰だろう、と思いながら見ていると、小湊君が、彼は沢村栄純君です、と紹介してくれた。 沢村君か。倉持と御幸君と仲良いんだな、あんなに楽しそうにじゃれあって。なんて眺めていると、沢村君がやめろ!なんて言って、関節技をキメようとしている倉持から逃げ出し、私の前まで走ってきた。 「大丈夫?」 私がそう声を掛けると、沢村君ははい…と息をきらして答える。そして私を見ると、俺、沢村栄純っていいます!と右手を差し出された。初めまして、青山美加です、と右手を出して握手すると、沢村君は驚いた顔をして、 「あなたが青山先輩ですか!最近、寮で倉持先輩とか御幸先輩が青山先輩の話ばっかしてるからどんな人か気になってたんですよ!」 と笑顔で言った。 沢村君は、笑顔が可愛くて、元気がよくて、明るくて、普段口の悪い幼なじみと、顔はよくても中身の最悪な眼鏡君としか一緒にいない私にはとても新鮮だった。 そうなんだ、と私が言おうとすると、倉持が沢村君にタイキックして、 「お前何さりげなく美加と手繋いでんだよ!」 と言い、御幸君が 「しかもなんか余計な事べらべら喋ってたよね?」 と黒いオーラをだして手をボキボキと鳴らしはじめた。 このままじゃ沢村君が殴られる! 「ちょっとやめなよ!」 私は咄嗟に沢村君の前に出て、沢村君の盾になる。 倉持と御幸君は驚いた顔をしている。 「沢村君、後輩なんでしょ?いじめたら可哀相じゃん!それに、寮で私の話してるって何?私の悪口でも話してるわけ?」 私がそう言うと、沢村君が後ろから、いや、逆ッス!と言った。 逆?と首をかしげる私の前で、倉持と御幸君は沢村…と本当にそのまま沢村君を殴りそうになった。 「ちょっと!倉持が御幸君と付き合おうが関係ないけど、沢村君に手出したらダメだからね!」 私が思わずそう言うと、その場は一瞬静まり、そして沢村君と小湊君と明日美ちゃんの笑い声が響いた。 「手出すの意味違う…!」 「え、御幸先輩と倉持先輩ってそんな仲だったんスか?」 「ごめんね、あたしと美加、気が利かなくて…。」 三人がそれぞれ笑いながらそう言うと、倉持と御幸君は今度は私の名前を呼びながらこちらを睨んだ。 えっ 「きゃぁーっ!」 「てめぇ待ちやがれ!」 思わず逃げ出す私を、二人は追い掛けてくる。 明日美ちゃんに後で聞いたら、相当異様な光景で、取り残された明日美ちゃんは、仕方なく小湊君と沢村君とご飯を食べたらしい。 いいなぁ、沢村君。思わず私がそう呟くと、倉持と御幸君にすごい勢いで見られた。そんな私に明日美ちゃんは、 「わかるよー。だって、沢村君こいつらと正反対だもんね。」 と笑った。 「そうなの。私沢村君みたいな子結構好きだよ!」 後輩としてね、と続けると、倉持と御幸君はそ、そうだよな、はっはっは、後輩かぁ!なんて笑い出す。私が不思議に思っていると、明日美ちゃんに肩を叩かれ、あんたは罪な女だよ、と言われた。 ← → |