たくましい背中 あれからというものの、小湊先輩と伊佐敷先輩は、週に一回のペースで私の教室に来ては、 「美加ちゃーん!」 「青山ー!」 なんてニヤニヤして私の事をからかいに来る。倉持にはきつく言えるけれど、さすがに先輩には言えないし、私にとってはこっちのほうが厄介だった。 しかも、野球部の先輩が私に会いに来る、ってもんで、女の子達からの視線がめちゃめちゃ痛い…。 「明日美ちゃん…、全身に視線を感じる…。」 「あはは!まぁ、あたしといたら大丈夫だよ!」 明日美ちゃんは小湊先輩の妹だから簡単に手は出せないもんね…。明日美ちゃんは小湊先輩や伊佐敷先輩が来る度に、何で哲さん連れて来ないの!?と先輩に向かって怒っている。 明日美ちゃんの態度はめちゃめちゃわかりやすいのに、結城先輩は天然で鈍感だから気付いてくれないらしい。本当苦労するよ、とうなだれていたけれど、そんな明日美ちゃんが可愛いと思った。 「御幸君、試合見に行ったよ!」 「凄くかっこよかった!」 「本当本当!」 クラスに響く女子の声は、この間の試合からまた一段と騒がしくなった。皆よく御幸君のこと見てるんだなー。 「美加は御幸には興味ないもんねー。」 興味ないわけじゃない…と思う。今だって気づけば御幸君を目で追ってしまう。イケメンだから見てて楽しいし。でもそれは別に好きという訳でもなくて…謎だ。 そして、最近は倉持が私の教室に来て、御幸君に絡んでいくようになったので、心なしか更に女子が増えた、気がする。ついに倉持にもファン出来たのか! 「なんか美加が嬉しそうだね。」 「だって、小さい頃の知り合いが人気者って嬉しいじゃん。」 私が微笑みながらそう言うと、でもちょっと淋しい、とかないの?なんて聞かれた。倉持が人気者になって淋しい? 「ないない!」 私がそう笑うと、明日美ちゃんは倉持かわいそー、と苦笑いした。 今日は明日美ちゃんがバイトなので先に帰ってしまった。私は学校にいても仕方ないので、帰ろうかなー、と一人玄関へ向かっていた。 その時、 「おい、青山。」 と声がした。女子の。 恐る恐るそちらを見ると、怖い顔をした女の子が5人立っていて、ちょっとこっち来い、なんて腕を引っ張られて屋上に連れて来られた。 うわぁ…。この時がきてしまった…。怖い…明日美ちゃん…。私まだ転向してきて一ヶ月も経ってないのに…! 屋上の扉を閉めると、 「てめぇ、倉持とどんな関係なんだよ!?」 と怒鳴られた。もしかして昔の私って、こんな言葉遣いだったのかな。直してよかった、あ、私はイジメなんてしてないけど、なんて考えていたら、てめぇ聞いてんのかよ!とまた怒鳴られた。 そして横並びになった彼女達は、端から 「なんで亮介さんお前に会いに来てんの?」 「純さんもだよ!」 「倉持なんか毎日!」 「一也が最近てめぇの話するんだけど。」 「明日美と仲良いからって調子のってんじゃねぇよ!」 と私に怒鳴る。 いや、小湊先輩達の事、亮介さんとか純さんとか呼んでる時点で私よりあなた達の方が親しいと思いますし、倉持は小さい頃の知り合いで、御幸君の事は知りません。明日美ちゃんと仲良いからって調子にはのってません。ラッキーとは思ってます。 なんて頭の中を駆け巡ったけど、口に出せるわけなく、私はただ後ずさりをした。 何も答えない私に痺れを切らしたのか、女の子の一人が、私の胸倉を掴んで私の顔をパーで殴ろうとしてきた。 いや、女の子の力でも絶対痛いよね、それ、まじやめて、助けて、誰か…! と思わず目をつぶる。しかし、いつになっても痛みはやって来なくて、恐る恐る目を開けると、そこには御幸君がいて、女の子の腕を掴んでいた。 「何やってる。」 御幸君がそう言うと、女の子は顔色を変え、みんな一斉に後ずさりした。腕を掴まれている子は、今にも泣きそうな顔で、 「ご、ごめんなさい!亮介さんだけには言わないで…」 と御幸君に言った。すると御幸君は少し笑って、 「俺がそんなにいい人に見えるの?ごめんね、俺、嫌な奴だから。」 と言った。眼鏡越しの瞳は力を持っていて、御幸君が手の力を抜いた瞬間、女の子達はバタバタと逃げて行った。 二人きりになった屋上で、私は足がいきなり震えだし、思わず膝をついた。そんな私に御幸君は、同じ目線になるまでしゃがんで、大丈夫?なんて優しく笑ってくれる。 「ごめんなぁ、こういう事たまにあるんだよ。青山さん、小湊とよく一緒にいるから大丈夫かと思って油断してた。」 「平気…。」 「本当わりぃ。俺がカッコいいばっかりにさ。」 「………。」 御幸君が、私を笑わせてくれようとしているのがわかって、私は思わず涙が零れそうになる。それを我慢して、御幸君はなんでここに?と聞くと、春は眠くなるから、午後はここでお昼寝してたんだ、なんて笑った。不良だー、と笑うと、やっと笑ってくれた、と微笑まれた。 「それじゃあ、そろそろ部活行かなきゃ。」 御幸君はそう言って立ち上がる。 「頑張ってね、本当にありがとう。」 私も立ち上がってそう言う。すると御幸君はすこし不満そうな顔をする。どうしたんだろう、と思っていると、 「ねぇ、俺も倉持みたいに接してほしいな。」 と言ってきた。倉持みたいって、バカとかアホとか言われたいってこと?御幸君ってドM? 「でも、私…」 「俺さ、可愛い女の子って苦手でさ。あ、もちろん見た目が可愛い子は大歓迎だけど、性格が乙女っぽい子って裏がありそうで怖いんだよね。俺の周りそんなんばっかだし…。それにさ、青山さんはああいう方がいいよ。面白くて。」 御幸君は悪戯っ子のように笑う。 「ま、またそう言う!」 「よろしくね。じゃ、いこっか。玄関まで送るよ。」 私が怒っても、御幸君は余裕な感じで笑った。大人なんだな、御幸君は…。 一緒に玄関まで向かいながら、御幸君って性格めちゃめちゃ悪いと思ってた、と告げると、よく言われる、と笑った。 玄関につき、御幸君はじゃあ俺こっちだから、とグラウンドを指差す。気をつけて帰ってね、と私に背を向ける御幸君に、思わず声をかける。 「御幸君!」 何?という風にこちらを振り向く御幸君。倉持、みたいに…。 「…部活、頑張れ!」 私がそう言うと、御幸君はニヤッと笑って、 「今度の試合は、青山さんに見てもらえるように頑張る。」 と小さく手を振って歩きだした。 御幸君は最初に見た時からイケメンだと思ってたけど、後ろ姿もイケメンで。 やっぱり野球男児最高!と一人萌えました。 ← → |