>> 朝食

来客がいなくなった部屋には古い木の床に朝の光がやんわりと射し込んでいた。シイは上体だけを起こししばらく壁にかけた絵をみつめていた。頭が重い。そう思って頭を触ると明らかに髪の量が増えていた。

「35年、」

改めて自分が相当長い間寝ていたことを実感する。そっと床に足をおろすとヒンヤリと冷たい。何もかもが35年ぶりで、動く度に骨が軋む。もうみんな集まっただろうか、シイはドアを開けて部屋を出た。


「遅かったでスネ」

伯爵がシイに声をかけると、いくらかの視線がそちらに向く。知らない顔ばかり。そりゃそうだ。みんなあの時に死んで、私が眠ってる間にとっくに転生してるんだから。この場では私が知らない顔になる。シイは食事をする部屋に着くまでに迷ったことを伯爵に告げると、伯爵は思い出したように言った。

「そういえば、この間お引っ越ししたんでしタッケ」
「・・・そうそうことは事前に言っていただけると助かります」

すると、ロードはイスから立ち上がり「シイのイスはこっちぃ」とシイの背中を押す。シイは言われたとおりにイスに座り、料理を食べ始める。しかし相変わらず自分への視線が気になった。フォークに刺さったゆで卵を口に入れながら相手をみやると黒髪の男と目が合う。ヘビみたいな男だ。

「ね、千年公。誰この可愛らしいご令嬢!」
「皆さんはお初でスネ。新しいノアっ子のシイちゃんデス。シェリルの養子にしてあげてくだサイ」

シェリルは引き続きその熱い視線をシイに注ぐ。シェリルは美しい、可愛いものに目がないのだ。

「おい、シェリル。コイツ引いてんぞ」
「そんなことないよティキ。心配しなくてもティキは充分美しいよ」
「気持ち悪さこの上ねえよ」

ティキと呼ばれた黒髪のゆるいウェーブがかった男が眉をひそめて言う。

「今朝いるのはこの5人だけデス。あとは各々よろしくやってくだサイ。シイちゃん顔と名前は覚えましたカ・・・」
「千年公ぉシイ寝てるよぉ」
「お疲れですカネェ」
「いや、今起きたばっかだろ」
「昔から変わりませんネ」

シイはイスに座ったまま器用に眠っていた。


そんな1日の始まり



20120219



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