>> 淡い、桃の花

新しいヘアゴムをおろした。淡いピンクの花がついていて春らしい。私はおろした髪を二つに結ってヘアゴムをつけた。・・・よし。
「変、じゃないかな」
先輩、気付いてくれるかな。か、可愛いとか言ってくれないかな。目の前にうつる自分とにらめっこして試しに笑ってみた。だめだ、きもい。不自然につり上がった口角はすぐにへの字になって顔が強張った。まさかね、先輩が気付くわけないよね。薄く苦笑いをして家を出た。


「葵ちゃん」
「・・・おはようございますティキ先生」
「ごめんね?俺で」
道の途中で後ろからポンポン、と肩を叩かれ呼ばれた名前に少しだけ期待した。絶対先生狙ってやってるよね。現実ってこんなものだよね、少し冷たい風に揺れた髪を直したら「あ、」とティキ先生がおろしたてのヘアゴムに触れた。

「これおろしたて?」
「あ、はい」
「可愛い可愛い」
「・・・どうも」
なんか、なんか違和感を感じるんだけど気のせいかな。

「ん?どしたの」
「な、なんか・・・
先生ってそういうの気付くんだなって」
不覚にもちょっと嬉しいじゃないか。
「女ってこういうの気付いて欲しいだろ?」
「・・・そりゃあ、」
でも、誰でもいいわけでは決してなくて・・・と噤んだ私を知ってか知らずか先生は笑った。

「ま、葵ちゃんが本当に気付いて欲しかったのは俺じゃないだろうけどな」
私は先生を見たまま目を丸くして黙ってしまった。先生はチラッと後ろを見て口角をあげる。
「じゃあな、葵ちゃん」
「え?」
先行くんですか、と聞けば先生は顔を後ろ見てみろ、と言わんばかりにクイッと動かした。その通りに後ろに振り向けば、そこにはアレン先輩が立っていて、
「おはようございます」
なぜか、少し複雑そうな顔をしていた。はっとしてティキ先生を見れば既にずっと先を歩いていた。

「おはよ、ございます」
緊張で強張った顔で小さくお辞儀をした。先輩は「一緒に行きましょうか」と小さく笑った。


特に何を話すでもなく、昇降口まで来てしまった。別に気まずいわけではないけど、先輩は無理に話そうとしなかった。
ローファーを下駄箱に入れて階段の前で待っていた先輩の所まで小走りで行くと、先輩がゆっくり口を開いた。

「あの先生と、仲いいんですか?」

予想外の先輩の質問に、私は先輩の顔をじっと見てしまった。なんでそんなこと聞くんだろ?
「別に仲良いわけじゃないです、よ?」
そう言うと、今度は先輩が私をじっと見た。大きくて綺麗な目、吸い込まれてしまいそうだ。私は慣れない顔の近さに一歩ひくと、先輩が我に返ったようにまばたきを二回した。

「そっか、じゃあ僕行きますね」
そう言って階段を上って行った。


私はその後ろ姿をぼんやり見て、何だったんだろうと不思議な気持ちになった。そして、
先輩、ヘアゴム気付かなかったな。と、特に悲しい気持ちにはならずに漠然と思った。


淡い、桃の花



prev//next
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -