>> 見つけてくれた

先輩はすごくモテる。
先輩は自覚していないようだけど、本当にモテている。それはきっと外見もあるんだろうけど、やっぱり人当たりの良さが大きいんだと思う。そんな高嶺の花を私が好いていると思うと、恐れ多いような恥ずかしいような気分になる。きっと先輩はみんなに優しい。私なんて大勢の女の子達のうちの一人なんだろうなって、一人で考えて一人で少し悲しくなる。


「あ、」
昼休みになってカバンを開いたら驚いた。お弁当を家に忘れてきてしまった。
「どーしたのぉ?」
ひょこっと出てきたロードが私のカバンを覗き込んだ。
「お弁当忘れちゃった」
「もぉ〜葵ボーっとしてるんだからぁ」
「ちゃんと入れたよ?」

入れたよ、確かに。と呟いてもお弁当は見当たらない。でも幸い財布がある。しょうがない、購買に行こう。
「いってらっしゃーい」
「え、ロードついてきてくれないの?」
「やだよぉ、僕人混み嫌いだもん」
白状者め、と言うとロードはニッコリ笑って手をヒラヒラ振った。


言い表すならば、まさに戦場。みんな自分の好きな物を買うために押し合い、へし合い、せめぎ合う。「おばちゃんクリームパン!」などの声がたまに聞こえるが、ほとんどは多くの生徒の声が掻き消し合う。それはまるで一塊の大きなノイズだ。

「うぁ、すごい」
人集りから一歩ひいたところで、私はそれを他人事のように眺めていた。まさに今からこの争いに身を投げようとしているのに。

すると、聞き慣れたあの人の声が聞こえた。
「おばちゃん!カレーパン下さい!」
私はすぐに声のした方を向いて姿を探した。あ、いた。自分でもびっくりしてしまうほど簡単に見つけられた。好きな人って大概どんな場所でもすぐに見つけられる。きっとそういうアンテナがヒトにはついてるんだ。

そうぼんやり考えて人集りを見ていたら、早く行けよ、とばかりに後ろから誰かに押された。「うわっ」と小さく出た声は私の身体といっしょにあの人集りの中に押し込まれて、消えた。
前から、後ろから、右から、左から、人の波は絶え間なく押し寄せてくる。苦しい、苦しい。ここから出たいと思っても、後ろから人がどんどん押してきて戻るに戻れない。だんだん息が苦しくなってきて自分がこのまま消えてしまいそうだった。

その時、誰かにとても強い力で腕を握られ、引っ張られた。私の身体はぐいぐい人集りの中心からそれていき、背中が何かにぶつかった。

「大丈夫ですか?」
「せんぱ・・・!」

アレン先輩が私の腕を引っ張って人集りの外に出してくれたのだ。「どこか痛い?」と聞かれたので首を横に振れば、「よかった」と微笑んだ。

「今日は購買?」
「はい。あの、お弁当忘れちゃって・・・」

自分で言ってて恥ずかしくなる。もう今日お昼食べれない。もうこのまま走って教室に戻ってしまいたかった。すると、先輩が言う。

「何が欲しいの?」
「へ?」
「取ってきてあげる」
「えぇ!悪いです」

そんな、先輩をパシリみたいに扱えません!と私が手をブンブン振ると、先輩はニッコリ笑って言った。

「教えて?」

その言葉はとても穏やかなのに何故か逆らえないような色を含んでいた。
「メ、メロンパン」
私は小声で言うと先輩はもう一度ニッコリ笑って、人集りの中に消えた。

そして数分後、先輩は見事メロンパンを獲得して、私のところに戻ってきた。私は何度もお礼を言った。先輩は「いえいえ」と私にメロンパンをくれた。

それにしても、
「よくあんな人混みで私のこと見つけましたね」
もともと身長は高くないし、こんな人混みでは埋もれてしまうだろうに。
「あ、いや・・・」
先輩が少し照れるように頭をかいて言った。

「なんか葵ちゃんの声が聞こえて、そっち向いたら葵ちゃんが埋もれてた」
「え・・・」

それって

「思ったよりも簡単に見つけられたから自分でもびっくり」
あは、すごいよね。

そう笑った先輩を私は真っ直ぐに見れなかった。あんな沢山の人達の中から一人の私を見つけ出して助けてくれた。その理由が私と同じならいいのに。緩みそうな口元を私は貰ったメロンパンで隠して俯いた。


見つけてくれた



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