>> こいするひと

眩しい。
窓から入る日光がだんだん強くなってきて、私は目を細めた。新しい制服も、落ち着かない廊下も、まだ知らない友達もだんだん慣れてきた。

でも、まだ慣れないものもある。

「葵ちゃん」

このくすぐったい響きに、慣れる目処は立っていない。

檸檬愛玉



「ア、アレン先輩・・・こんにちは」
振り返ったらニッコリ笑っている先輩が立っていて、私はぺこりとお辞儀をした。

「葵ちゃん、こんにちは」
先輩は笑う。
職員室まで用事?と尋ねられたので、コクリコクリと頷く。すると先輩は「じゃあ途中までいっしょだね」と言って、ゆっくり歩き出した。私はその場に立ったまま、先輩の後ろ姿を見ていた。しばらく歩いた先輩は後ろを振り返った。

「葵ちゃん、なにしてんの?」
「え・・・?」
「置いてくよ?」

え、あ!私も一緒に歩くのか!え?一緒に歩く?先輩の隣を?

「葵ちゃーん」
はーやーくー、先輩が私をせかすように言うので、ちょこちょこ走って先輩の隣に並んだ。この位置、学校でいちばん落ち着かないと思う。私は持っていたファイルを眺めることしかできない。先輩なんて恥ずかしくて見れない。見たところで、恥ずかしくて話せない。だから、必要以上に話さない先輩は私にとってありがたかった。

先輩が階段の前で立ち止まる。職員室の前にある階段から先輩は二年生の校舎に行く。一年生の私には上ることのできない階段。先輩が私を見るとニッコリ笑った。
「じゃあ、またね」
私が頷けば、先輩は手をヒラヒラ振って階段を上って行った。



「うぁ、緊張・・・した」
先輩が見えなくなった瞬間、体中がボッと熱くなってきた。ど、動悸が・・・
一年生の私と、二年生の先輩は校舎が違う。だから会うとしたら渡り廊下で、そう毎日会うことはない。むしろ、私がいつまでも先輩に慣れないのはそのせいかもしれない。

元からあまり多弁ではないけど、先輩の前だと本当に話せなくなる。いつも「あ・・・」とか「う・・・」しか言ってない気がする。出来るなら、もっと話したい。

葵ちゃん、と笑う先輩を思い出して、また一人で恥ずかしくなる。あの呼び方をされると、どうしようもなくくすぐったい。うぁ、恥ずかしい・・・!

「葵ちゃん」
「うわぁ!?」
「え、なにその反応。先生傷ついちゃう」

ティキ先生だった。ああ、そういえば先生も私のことそう呼んでる。

「もう、予鈴鳴ったよ?」
「うぁ、はい」
「なになに、ちょっと顔赤くない?」
「ちょ、見ないでください」
「えー?」

むりやり覗き込んだティキ先生の顔はにやついていた。
「葵ちゃんも少年も若いねえ」

「きょ、教室行きます」
そう言って逃げるように元来た廊下を走った。


新しい制服も友達もティキ先生のいじりも慣れてきている。でも一つだけ慣れないものがある。
それはアレン先輩。

私はあなたに恋をしている


こいするひと



prev//next
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -