>> 秘密の指

近頃、先輩と登校するようになった。約束とかしてるわけではないけど、7時半に家を出るとちょうど駅の改札から出てきた先輩と会えるのだ。そして今日の天気だとか、ラビ先輩がどうだとか、たわいもない話をしながら学校までの並木道を歩く。

私は先輩に顔の緩みを気付かれるのが恥ずかしくて、あまり目を見て話せなかったけど、この時間が幸せだった。


カップケーキの件からそう遠くない、ある火曜日のことだった。



「たっくーん」
「ヒトミちゃーん」

私と先輩の前を学校でも有名なカップルが歩いていたのだ。無駄に名前を呼び合い、スキンシップが多く、しまいには公衆の面前でキスまでしだすものだから、私と先輩は顔を見合わせて苦笑いした。


「す、ごいですね」
「そだね・・・」


会話が続かない。どうしてくれるんだこの微妙な雰囲気。私は前を歩くカップルを力いっぱい睨むけど、当の本人たちは知りもしない。気まずい沈黙のあと、先輩が「あのさ、」と遠慮がちに口を開いた。


「葵ちゃんってさ、好きな人とかいるの?」
「す・・・ええええっ!?」

私が驚きのあまり柄にもなく大きな声をあげたから先輩に加えて前のカップルも私を見た。


「す、好きな人なんて・・・」

先輩あなたです、そんなこと言えるはずもない。でも先輩に嘘をつくのは少し嫌な感じがして、ただ狼狽していたら先輩が笑った。

「いるんだ?」
「い、いやあの、はいいえ」
「ふは、どっち」

からかうように笑うから、私は恥ずかしくてしょうがない。もう先輩にバレてもおかしくない反応をしている気がする。私は話をそらすために先輩に同じ質問をぶつけてみる。

「先輩はどうなんですかっ」

話を逸らすための質問とはいえ、結構気になっていたことだった。先輩は人気があるから可愛い女の人なんて沢山いるはずだ。

先輩は「えー、僕?」と言って頭をかいた。しばらく考えた先輩は、私を見て微笑み、人差し指を口に当てて言った。


「葵ちゃんには言わない」


秘密、と目を細めて笑う先輩にドキドキすると同時に、針みたいな何かで肌をチクチク刺されたような感じがした。


「それって、いるって受け取っていいんですか」
「さあどうでしょう?」


先輩は楽しんでいるようだった。私がどう解釈したもんかと頭を悩ませていると、先輩が私の頭をポンポンなでた。


「もう少し仲良くなったら教えてあげる」


今日の先輩は意味深な発言ばかり。どう受け取ったらいいんですか先輩、私は先輩の横顔に思った。


秘密の指



――――――

進展の予感。


20111009



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