>> カップケーキ戦争

「いきますよ・・・」


先輩たち三人が顔を見合わせる。先輩がいつになく真剣な顔をするからびっくりしてしまう。「そんなに欲しいのかな」とロードに耳打ちをすれば、ロードはニヤニヤと笑うだけだった。

「イカサマはなしだぜ少年」
「望むところですよ」


先輩が拳を高く突き上げた。

そして、



「じゃんけん」



「「「ぽんっ」」」



結果は一目瞭然だった。



―――――――

「・・・・・先輩」



「せんぱーい」


私はとぼとぼと駅までの道を歩く先輩の後についていく。さっき出したチョキはその時の形のまま宙に浮いていた。


「先輩っ!」
「っああ、はい!」
「信号赤です!」
「うわっ」

眼前をトラックが通り過ぎていった。気付いたら私は先輩のワイシャツの裾を引っ張っていて、その拍子に先輩との距離が縮まった。

束の間の沈黙の後、先輩はため息をついて私の頭にポンポンと手を置いたかと思うと、また歩き出した。私もそれについていく。


「・・・そんなに食べたかったんですか?ケーキ」
「まあ、ねえ?」

歩いている先輩がチラリとこちらを向いて笑う。遠くの方で、駅のアナウンスが聞こえた。

「あ、僕次の電車に乗らなきゃ」

先輩が少し足を速めた。
「あのっ先輩!」
私はその背中に、ずっとカバンの中に忍ばせていた、ずっと渡すタイミングを探していたカップケーキを差し出した。

先輩が急に止まったから半ば押し付ける形になってしまったわけだけど。

振り向いた先輩は目を丸くして、ただそのピンクの包みを見ていた。早く言わないと電車が行ってしまう。


「ほ、本当は、先輩の分だけちゃんととってあったんですけど、ラビ先輩とか先生がいっぱい来ちゃって、」
言うにも言えなくて、
私の声はだんだん小さくなり、ついには構内アナウンスに消え入ってしまった。

「つまり、その」


「この前、先輩の制服汚しちゃったから、お詫び・・・です」


恥ずかしすぎて、そのまま俯いてしまった。


「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・先輩?」
「・・・・・」

もしかしてどん引き?


「あ、あのっすいません」
慌てて先輩の顔を覗き込んだ瞬間、私は息を忘れた。


あ、れ?


「先輩?」
「ちょ、見ちゃだめ!」

先輩は右手で口元を隠すように視線をそらした。なんか、赤い?


「・・・どうしよう」
先輩が呟くけど、私は意味が分からずに首をかしげた。


「すっごい嬉しい」


構内アナウンスのせいでよく聞こえなかったけど、私にはそう聞こえた。


『18時35分発、栄町行き方面―』


「あ、やば」
そう言って、先輩は私に別れを告げて足早にホームへ入っていった。



私はしばらくその場に立ち尽くしていた。そしてやっと頭の回転が回復してきて、今頃になってやっと分かったのだ。


「先輩、照れてた?」


そう言って、私もひとり赤面していた。



カップケーキ戦争



―――――――

デレデレアレンさん。


20111002



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