>> 飴玉の魔法

先輩が天然で本当に良かったと思う。先日のあの爆弾発言は先輩のくしゃみで嘘みたいに消えてしまった。


―私は先輩のことが



この先を言わなくて本当に良かった。恥ずかしくも居心地のいいこの関係を壊さなくて本当に良かった。鼻をすすり「で、なんだっけ?」と尋ねる先輩を見て切実に思った。



そしてついにテストはやって来た。不思議なもので勉強っいうのは、すればするほど不安になる。今日の私もそれだ。私はいつもより早い時間の駅前の道を歩いていた。歩いている生徒もまばらだ。




「あ、」

先輩だ。


先輩が少し前を歩いていた。声をかけようか迷う。考えてみれば、いつも先輩が声をかけてくれてたんだ。自分からは少し恥ずかしい。

それでも最近の私は贅沢になっているようで、先輩を見たら話さないと気が済まない。


足を速めて、少しずつ先輩との距離が縮まっていく。少しずつ、少しずつ。


小さく息を吸った。

「せっ 先輩」


私の声に先輩がゆっくり振り返って、柔らかく笑った。

「おはよ、葵ちゃん」
「おはようございます」

先輩は歩くスピードを少し落として私に合わせてくれた。

「眠そうだね」
「寝不足なんです」
私は薄く苦笑した。クマとかできてたらどうしよう。そして私は「今日は数学なんで」と加えた。

「わ、今日なんだ。今回は大丈夫そう?」
「・・・不安、です」

私は正直に言った。私はそう言って俯いた。


しばらく沈黙が続いた。


「あ、そうだ葵ちゃんストップ!」
何かを思い付いたらしい先輩は急に立ち止まって私を呼び止めた。
何かと思って先輩を見上げると、先輩はにっこり笑った。

「ちょっと目ぇ閉じて」



「はい?」
「いいから、ほら」
「・・・?」

私が黙って目を閉じると、何やら先輩はガサゴソと何かをあさりはじめた。そして「あったー」と小さく呟いたのが聞こえた。

「はい、口あけて」
「口!?」


この人本気だろうか。そんな道の真ん中で目をつぶって口をあんぐり開けるなんてただの変な人じゃないか。

「ね、はやく」

どうやら本気らしい、私は観念して小さく口を開けた。



カランッ



軽く弾んだ音のあと、口の中に甘い香りが広がった。レモン味の飴玉だ。


「数学が解けるおまじない」


そう言って、先輩が人差し指を唇に当てて微笑んだ。嬉しいやら恥ずかしいやらで、俯いた私の頭上に先輩が言った。


「いい点数とったら、なんかご褒美あげるよ」
「ご褒美?」
「うん、そうだな・・・」




「メロンパン奢ってあげるよ」


飴玉の魔法



―――――
ご褒美メロンパンかよっていう。



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