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「二階のラプンツェル」

(2015/05/09)

#深夜の真剣文字書き60分一本勝負
使用したお題:「星を観るには速すぎて」


 こんばんは、いい夜ね。

 あなた、あなたよ。あなたに言っているの。
 今晩は良い夜だから、少しお話ししましょうよ。
 今夜は星が綺麗だから、お話ししましょうよ。

 星なんて見えない?
 ……そうかしら。

 都会では星なんて見えない、なんて言うけれど、そんなことないわ。だってここから見る星はとっても綺麗なのよ。あたし、ここから見る星が好きなの。星なんて見えないだなんて、そういうことを言っている連中に限って空なんて見ていない、夜を知らないのね。

 あら、怒っているわけじゃないの。むしろ逆。こんな夜に、あなたのような人と、お話しできて舞い上がっているのね。あたしは普段おしゃべりなんてしないの。とても静かで、おしとやかな女の子なのよ。
 そうだ、この間の流星群を見た? 都会でも、星は見えたでしょう?
 あたし一晩中、ここからこうして夜を見ていたわ。星が光って、落ちた! 一晩中、星の光を浴びていたの。星の光を浴びて生きているのよ。あなたならわかるでしょう? あなたも星が好きだからこんな時間に散歩なんてしているんでしょう?

 あなたも夜が好きなのね。夜が、星が好きなの?
 それとも気があるのはあたし、かしら。
 うふふ、気付いていないとでも思ったの? あなたあたしをじっと見ていたでしょう? あたしが星を見るのと同じで、あたしはあなたの方なんてこれっぽっちも見てやらなかったけど、それでも視線が注がれているのには気付いていたわ。あんなふうに、星の方でもあたしの視線を感じていたりするのかしら? それなら、星は、世界中の天文望遠鏡を見つめ返したりする? ねえ、あがっていらっしゃいな。こっちへ来て! お話ししましょう!

 あたし、あなたみたいな人を待っていたのよ。
 あなたの方でも待っていたんじゃない? いつ声をかけようか、どうしようか、なんて。うふふ。そう見える? 何でもわかっちゃうわけじゃないの。そうだったらいいなって、思っただけ。
 部屋の鍵は開けておいたわ。お茶も、あったかいミルクも出してあげることはできないけれど、それでもいいでしょう? この部屋にあるのはあたしと、ベランダだけで。さあ、そんなところにいないで。こっちへ来て、一緒に星を見ましょう。

 星なんて見えない?
 曇り空だから?
 ねえ、それよりあなたの足が凍っているのはどうして?

 星なんて、あらそんなの当たり前でしょう。
 雲が陰っていたら星は見えないのよ。
 ああそう、あなた、だから今晩に限ってあたしのことをまじまじと、隠れようともせず見つめていたのね。あたしの姿がずっと奇妙に見えたのね。でも仕方ないじゃない。あたしはこんなだから、ずっと星を見ている以外ないじゃない。でも、そろそろ飽きちゃったな。
 ね、いいでしょう? あたしずっと待ってたの。ずっとずっと、首を長くして待っていたのよ。あなたのことを待ちすぎて、首がこんなに長くなって。ひどいでしょう? 自分では細身だと思っていたのに。この縄が細かったらきっと、あの星みたいに落ちて、今頃は星も見られなくなっていたでしょうね。でもいいの。

 ……あなたも、星が好きなんでしょう?



追記

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