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鬼は茨木

(2015/02/21)

「茨鬼」のおまけ小話詰め合わせ


・「茨鬼」NGシーン

T「で、おばあさん背負ってったんだけど、そしたらなんかしゅばって飛んで、わーってなってたら家の中で光って、でババアーッ!って叫び声が聞こえて」
Y「整理してから話してくれ」



・つまり、そういうこと

「化け物には『招かれなければ家の中に入れない』という性質を持つものが多いんだ。吸血鬼なんてその典型だね。ましてや寺は仏の加護たる聖域、入ろうとしても入れなかったんじゃないかな」

『月見酒だなんて粋な集まりですね』
『よければ私たちも参加してよろしいでしょうか』
『ええ。私と、彼女』

「……ん?」
「なんだい? なにかひっかかるものでも?」
「いや、ひっかかるっていうか、キッタくんの説明でなんか思い出しそうになったんだけど。あれってつまり……いや、まさかね」

(参考:「ばけものづくし」03)




・「茨鬼」後日談

 ……キッタくんとそんな話をしたのが五日前のこと。それを踏まえてぼくはいま自分が取るべき行動を考えあぐねていた。
 よし、端的に状況を分析してみよう。
 ぼくは大きく息を吐き、顎に手を当てた。……キッタくんになりきったつもりで。
 家に帰ると冷蔵庫の前に女の人が倒れていた。髪を束ねてOL風の服装の、知らない女の人だ。死んでいるわけではない。酒瓶を抱きしめて、気持ちよさそうにいびきをかいている。酔いつぶれているんだ。そして女の人が抱いている酒瓶、ぼくの記憶が正しければあれは「神便鬼毒酒」のはずだ。横に転がっている見覚えのある木箱が証明だ。そしてこれがなにより重要なことだが――女の人には片腕がない。酒瓶を抱え込んでいるのは浅い色のスーツの右腕だけで、左腕は体の下で不自然につぶれている。
 以上のことから推測する。
 この女の人は鬼だ。先月おばあさんに化けてやってきたのが、今度は若い女の人に化けてやってきたに違いない。名前はたしか……イバラキ……イバラギ、だったっけ。茨鬼か茨城か忘れたけど、そんな名前の鬼だ。うん。
 どうだろう。我ながら良い線いってるんじゃないか? キッタくん顔負けの名推理だ。……まあ、最後は決まらなかったけど。

 問題は、これの状況をどうするかだ。
 いつまでもこれを冷蔵庫の前に転がしておくわけにはいかない。
「…………」
 ぼくがもしイチ兄、もとい『寺生まれのTさん』なら、ここは一発「破ァー!」と退散させれば済む話だ。父さんでもそうするだろう(現に父さんは一度この鬼を吹っ飛ばしている)。だがあいにくぼくは『寺生まれのTくん』だ。特別なにか除霊できるわけでもない。
 どうしようか、と脳内のキッタくんに話しかける。脳内のキッタくんはベッドの上で頬杖をつき、『そうだなあ。寝ている間に新聞紙で簀巻きにして石段から転がせばいいんじゃないか?』……にこにこして恐ろしいことを言う。できればもっと穏便な方法のほうがいいんだけど。ぼくが再度問いかけると、キッタくん(もちろん脳内の、だ)は『名案だと思うんだけどなあ』とうそぶいてあぐらをかいた。
『いいかいTくん、神便鬼毒酒は一度効くと当分は目を覚まさない。一晩くらいは効力があると思ってくれ』
 うんうん、と現実のぼくもうなずく。
『だからその鬼はすぐには起きて来ないだろう。特別な力がないなら自分にできることを考えるしかない。Tくん、僕らにできることを考えようぜ』
 ……わかったよキッタくん。さすがきみだ。脳内のイメージでも頼もしい。

 ぼくは決心した。
 ……ぼくにできること、それは『待つ』ことだ。
 父さんか、それかサンタが帰ってくればなんとかしてくれる。弟に頼るのは兄として格好悪いが、仕方ない。ぼくはぼくにできることを、だ。父さんも誰も帰って来ないそのときは……新聞紙で簀巻きにして石段から転がすことにしよう。



・茨城でも茨鬼でもなく、茨木童子(イバラキドウジ)
美女やら伯母さんやら女に化ける鬼のイメージが強い茨木童子ですが、実際の姿はそりゃ恐ろしい鬼の姿です。片腕は一度失って取り戻したはずが、現在また失われている模様。
寺坂家冷蔵庫の木箱に本当に鬼の腕が納められていたのかはともかく、懲りずにまたやってきそうな気がしますね。
しかしなぜ冷蔵庫に入れられていたのでしょう? 夏場の生ものは足が早いから? ……そのあたりは入れた本人に訊いてみないとわかりません





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