頭の中では強気でいられる。
ゲイだと言えて世莉にも堂々と告白ができるのに、結局それは妄想でしかなく現実は何も言えないへタレた奴が俺だ。
改善できない訳じゃないのだが、どうも行動にできない。
努力次第でどうとでも変われる事をこの年になって良く理解してるのに、それをしない自分は変化を求めてないのかもしれないと、この頃思う…。
「稔(みのる)さん、おはよ」
「おはよう」
今日もキラッキラの笑顔で挨拶してくる世莉が可愛い。
この顔を見るとやっぱり好きだなと思う。
「あれ、稔さんここ…」
「なっ、何?」
突然、世莉の手が俺の髪に伸びてきてビクリと身を引く。
「髪、ワックス固まってますよ」
「え、あ、そうなんだ。ごめん」
若干背の低い世莉に届くように頭を下げると、物凄く顔が近くて固まってしまった。
(うわ…やばい)
こういう事でもない限り、まずこの距離に世莉がいる事はない。
世莉の手が俺の髪に触れる度に良い匂いがして、いっそこのまま抱きついてしまいたくなった。
「もう、いいっすよ」
「ありがと…」
(心臓に悪い…)
さりげなく距離を取り「助かった」と胸をなでおろす。
未だバクバクする心臓を落ち着かせようと息を吐いた時、不意に京介と目が合ってしまった。
(うっ…)
怪訝な眼差し。
京介、誤解だ…そんな目をしなくても世莉は十分お前に惚れてる。
そう思うが黙ってこの視線を受けるのは少々悔しいので、“大人な俺”は些細な意地悪をしてみる事にした。
「世莉、ありがとな」
「わっ」
ポンポンとセットが崩れない程度に頭を撫でてやると、世莉は慌てて髪をおさえた。
いちいち可愛いとはこの事だろう。
そんな事を思いながらチラリと京介を見れば、表情には出ないが内心焦っているのが分かって心の中で苦笑した。
「世莉、京介が見てるよ」
「えっ?あっ…」
けど、世莉が恋してる顔を見るもの好きだから、俺は自らの手で世莉の背中を押してやる。
「行っておいで」
無自覚に顔を赤くして戸惑い気味に京介の元へ向かう。
そんな世莉を見ながら、やっぱり好きだと思うのはもう暫く許してほしい。
ちゃんと忘れるから。
その時は二人を祝福できる自分でありたいと、今は願うだけだ…。