ホストクラブ短編 | ナノ



初心で生意気で可愛い子


「今日から入った湊(みなと)っす、よろしくお願いします!」

「俺は日下 稔(くさか みのる)。ここのバーテンだ」

見た目は随分若そうだが、聞けば二十過ぎだと聞いて驚いたのは一週間前の事だ。

湊は大学を卒業したばかりで、割と良い所を出たと噂で聞いた。
まあ、就職難だから無理もないのだろうが、訳ありで入ったような気がするのは俺がゲイだからか…はたまた湊がそうだからか。

湊は俺と同じ匂いがするんだ。

恐らく彼もゲイなんじゃないだろうかと、俺のセンサーが反応してる。
バイかもしれないし、そのどちらでもないかもしれないが、ノンケとは少し違う雰囲気をもった男ではある。

実際の所は何も知らないのだが、それとは別に何となく嫌な予感を感じていた。




「湊、二卓のお客様にお詫びをしましたか?」

「え?してませんけど?」

珍しく京介が厳しい表情をしている所を見てしまった。

湊はホスト経験がないからミスも多いのだろうけど、それ以前に礼儀の基本となるものが欠けている。
挨拶も言葉使いも品がないし、何より改善しようという努力を感じられないのはカウンターに居る俺でも分かるほどだ。
そんな湊をヘルプにつけてる京介は、たまったもんじゃないだろう。

世莉も店に来たばかりの頃はあんな感じだったけど、アイツは自分に厳しかったしもう少し品も可愛げもあった。
だからこそナンバーワンになれたのだろうが、湊を見ていると先は長そうだと思わずにはいられない。

「その言葉使いどうにかなりませんか」

「何か悪いっすか?」

「そうですね…良くはないです。せめてお客様の前では控えるように努力してください」

「努力?えーっと…出来る限り?」

「……」

(京介、大変そうだなぁ…)

まだ京介だからこれで済んでるという事を分かってないんだろう。
世莉なら蹴りの一発でもくらってる所だ。

「貴方の場合は、注意された事を気に留める努力から始めた方がよさそうですね…」

「?」

きっちり言い終わった後、仕事に戻る京介に共感と同情を感じてしまう。
バーテンの俺はホスト同士の揉め事はほぼ無関係だが、見てしまった以上、放っておく訳にもいかず湊に声を掛けた。

「大丈夫?」

「え、何がっすか?」

「……いや、大丈夫ならいいんだ」

頭の上ハテナマークだらけの湊を見ながら苦笑しかできない。

(こりゃ大変だ…)

Queenに来て4年、何人もの新人を見てきたが湊はかなりの強者の様だ。

「テメェ、湊!ふざけんなよ!!」

そう思ってる傍から事件は起こる。

珍しく怒りを露わにした剛が、ずかずかとやってきて突然、湊の胸倉に掴みかかった。
剛は普段ニコニコして可愛い奴だが、人一倍上下関係に厳しい。
滅多に怒る事はないだけに湊が何かしでかしたんだろうと、少し様子を見る事にした。

「な、なんっすか?」

「お前、人の客に指名してとか言ってんじゃねぇよ!」

「何でですか?指名してもらわないと売上にならないでしょ?」

「ふざけてんのか、アァ!?」

剛が怒るのも無理はない。
この業界全般に言える事だが、人の指名客に「指名して」は禁句だ。
例えお客様が指名変えをしたいと言っても永久指名があるから無理なのだが、こういう揉め事が起きる原因になるからだ。

だが、湊は夜の事に関してかなり無知のようだし、このままなのは少し可哀想だ。

「剛、湊はシステムの事とか何も知らないんだよ」

「稔さん、でも!」

「今は仕事中だし、今そういう揉め事はやめるんだ」

「くそッ!」

剛は突き飛ばすように掴んだ胸倉を離すと、くるりと背中を向けて仕事へ戻っていった。

「……」

剛の後ろ姿を茫然と見ている湊。
流石に気を落としたんじゃないかと様子を窺っていると、次の瞬間予想外の言葉が聞こえてきた。

「すっげぇ、かっけぇー!あの人、絶対ヤンキーだ、絶対そう!」

「……」

頼まれた酒を作りながら思った。

(誰だ、アイツを面接した奴は…)

湊はここで上手くやっていけるのだろうか。
気にしても仕方のない事を思いながら、心配は募るばかりだった。






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