アナタはQueen | ナノ




この頃、オレの生活スタイルは乱れに乱れまくっている。

午後セリと一緒に飯を食って営業メール&電話。テレビ見たり美容に気を遣ったりする時間もあり、余裕を持って支度。そして同伴出勤。
仕事が終わればアフターして朝から昼に帰宅して就寝。これが今までのオレの生活スタイル。

だが最近は、仕事が終わってアフターもそこそこに京介の部屋に行き、エッチして一緒の布団で寝る。目が覚めるとギリギリの時間で、急いでタクシーに乗り一時帰宅。営業メールなんかは部屋に帰宅するまでのタクシーの中で済ませ、シャワーを浴びて着替えると飯も食わずに部屋を出る訳だが…。

こんな生活とてもじゃないが、体がもたない…。

だが、京介に呼ばれれば部屋に行ってしまうのはオレな訳で。自業自得だけど、このままこの生活を続けていくのはしんどいから、京介に言ってやった。

「一緒に住むか」

と、心の中で…。

当然、心の中での言葉を京介が分かる筈もなく、オレがこんな事を思ってるとは気付いていない。
まあ、言えるはずもない。だってオレ達はセフレだけど恋人じゃないんだから。

京介はオレの事を好きだと言っても、決して恋人になってほしいとは言わない。今まではそれが楽だった。
何も言わないけど愛をくれるから、好きな時にエッチして都合のいいようにできた。けど、最近はオレの方が京介に会わないと寂しいと思ってしまう。

完全に恋しちゃってるんだけど、それをオレの口から言えないのは、オレ達が男同士だからだ。




「……」

自分の部屋のより明らかに寝心地の良いベッドで目を覚ます。
余裕で二度寝できそうなのをグッと我慢して体を起こすと、オレしか乗っていないベッドに溜め息を吐いた。

(アイツ、ちゃんと寝てんのかよ…)

京介は十分な睡眠をとってるんだろうか?
寝るのもオレより遅いし、起きるのだってオレが目を覚ました頃には今のように既にベッドにいない。
元々寝なくても大丈夫なのか…案外、無理しているのか。
何にしてもこの状況はお互いにとって良くはないというのは理解できる。

「おーい、京…」

寝室のドアを開けながら声を掛けると、窓の前で京介が電話をしていた。

「はい…ええ…今日ですか?」

京介は話をしながらオレに向かってシーッ、と自分の口の前に人差し指を立てる。
その様子にオレがいると気付かれてはマズイ相手なのだろうと、そっとこの場を離れた。

(店の奴かな…)

こうやってコソコソしていると、ますます自分達の関係がやましいように思えてくる。
まあ、男同士でセックスしてる時点で友達とは言えないし、知られて得する事は何もないんだけど…。

(何か…愛人みてぇ…)

隠れて関係を持たなきゃいけないなんて、愛人のそれと何ら変わりない。
実際京介に嫁や恋人が居る訳ではないが、現状コソコソしているのも確かで公開できる関係ではないんだから。
それはオレ達が恋人になっても同じじゃないだろうか。

付き合えば今より監視が強くなる一方で、秘密が増えていくだけだ。
それって良い関係とは言えないだろうな…。

「すみませんでした」

「いいよ」

電話を終わらせた京介が報告と言わんばかりに、わざわざオレの元にやってきた。

その様子に小さな違和感を感じながらウォーターサーバーの水をコップに注ぎ、それを一気に飲み干す。ふう、と息を吐いて何もなかったようにキッチンへ向かうと、京介が何か言いたげな様子でオレを見ていた。

「何だよ」

「あ、いえ…電話の相手がオーナーだったので、世莉さんここに居る事を知られたくないんじゃないかと…。すみません」

「は?そんな事気にしてんのかよ」

まるでオレの心を見透かしてるみたいで嫌になる。
京介のこういうカンの鋭さは正直苦手だ。知られたくない事まで知られてしまうようで、それでいて何を聞いてくる訳でもないから怖い。
コイツが何を考えてるのか分からないのは、そういう所も理由の一つなんだろう。

だからオレは本心とは違う事を口にし続けるんだ…。

「お前の判断は、正しいよ」

「俺は、オーナーであろうと誰だろうと、世莉さんがここに居る事を知られても構いません」

「バーカ」

京介からは好意を感じる。だからオレ達の事を誰に知られても構わないと思う気持ちも疑う事はない。
けど、オレがそれに応えられないんだ…。

京介の事は好きだし、オレだってできる事なら特別になりたいと思ってる。
でも男女の恋愛のように関係を理解してもらう事が難しいのは容易に想像できる訳で…。
オレはその“普通とは違う”恋愛についていける自信がない。

好きだけど、気持ちには答えられなくて、それでも離れられないとその繰り返し。
いつかは答えが見つかるだろうと時間に任せて、結局は自分で行動する勇気がないだけなんだ。




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