目が覚めて、一番最初に感じたのは頭痛。
その後吐き気を感じて起き上がると、全身に激しい痛みを感じて悲鳴がでそうになった。
「仕事、休みますか?」
「行くよ…行くに決まってる…」
「はは…すごい声ですね。電話だと誰か分からなそうですよ」
風邪をひいてもここまで掠れた声は出た事がない。酒焼けのようなハスキーな声が喉から出て、自分は一体何をそんなに叫んだのかと寝る前の事を思い出す。
覚えてるのは酒を飲んで、今までの不安や不満を思う存分吐き出した事。
この時点で旅に出たいほど恥ずかしい事をしたと思ってる訳だが、この体の痛みと関係ないのは分かる。
エッチは…した。うん、した。
しかし、内容まで覚えてない…オレは一体何をしたんだ?
まさか自分が誘った挙句、ねだりまくってこの結果だとは今のオレには検討もつかず、どうせ斗真がガツいたんだろうと思った。
「あのさ…ケツとか乳首とか、すげぇ痛いんだけど。お前、強く触りすぎなんじゃねぇの?」
「……」
斗真は信じられないとでも言わんばかりの顔をした後、深い溜め息を吐いてベッドに腰を下ろした。
「はあ…俺は心配ですよ」
「何が?」
「アナタがあんなに淫らで厭らしいなんて…絶対に外で酔わせられませんね」
「え…?」
「でも、俺の前だけなら沢山飲んでもいいですよ。大歓迎です」
「え?えっ?」
「ああ、そうだ」
何か思い出したように言った後、斗真はチュッとキスをしてきた。
一体なにが「ああ、そうだ」なのか分からずキョトンとしてしまう。
「俺とキスするの好きって言ってくれましたよね。これからは前以上にいっぱいましょう」
確かに斗真とのキスは好きだ。コイツは上手いし気持ちがいい。
が、しかしだ。オレはもしかして…もしかしなくても、コイツにその事を言ったのか…?
「ええ〜っ!?」
頭を抱えた所で今更遅いのだが、本気で旅に出るしかないと思った。
しかし、オレはまだ救われてる事を知らない。
…そう、エッチの内容を覚えてなかったという救いに。
もし覚えてたら、きっと田舎に帰って部屋から一歩も出なかっただろう…。
そしてこの日、Queenのトイレを一番使ったのは間違いなくオレだった。
その日の翌週の夜。
「キョースケ、うぜぇぇ!!」
NEXTに俊の声が響き渡る。
京介が一度NEXTに行ってみたいと言うから俊のバイトの日を狙ってやってきた。
で、何故俊がウザがってるかと言うと…。
「世莉さんって意外と几帳面なんですよ。持ち物なんかいつも整理してるし…」
「聞いてねぇよ!セリの事なんか興味ねぇよ!」
京介はオレとの事を話せる相手ができたことが嬉しいようで、店に来てからオレの話ばかりする。普段なら「やめろ」と止めるところだが、今日は存分に語らせてやろうと思う。
何故なら俊が至極ウザそうだからだ。
そうオレは、俊が店に来た日「お前の話ばっかすんだよ!」の発言に仕返しをすると誓った訳だが…
(ざまあみろ)
仕返しは成功らしい。
この上なく鬱陶しそうな俊を酒の肴に、心の中で存分に笑ってやった。