「ナンバーワンは京介。頑張ったな」
パチパチと拍手が響く中、オレはギリッと歯噛みし京介を睨みつけた。
(今月も持ってかれた!いや、今はそんな事より…)
相変わらずオレの横を通り過ぎる京介は涼しい顔で、今はその表情さえ恐ろしく感じる。
京介がオレの横に戻ってくると一通り順位が発表されるまでの間、誰にもバレないように手を握ってきたり意味深な目で見てくるのが辛い。
そして確認のように耳元で言われる「約束ですよ」の言葉に激しく脅えた。
「さあ、帰りましょう」
「断る!!」
言うと同時にロッカーを閉める。
「どういう事ですか?」
「どうもこうもねぇんだよ、オレはこれから飲みに行くんだ」
「約束したじゃないですか。俺が今月もナンバーワンとったら、何でも言う事――むぐっ!?」
「黙れ!言うな!」
慌てて京介の口を押さえ付け、誰にも聞こえなかったかと辺りをキョロキョロ見回す。
――そう、オレは京介と約束をしている。
今月もナンバーワンをとったら何でも言う事を聞いてやると。
何故そんな事を言ったかというと、今月こそオレがナンバーワンに戻る筈だったからだ。
それを京介の奴、真に受けて頑張ったりするから先月よりもオレとの差をつけてのナンバーワンになってしまった。
このままだと追い越せなくなる…。
それだけは絶対に嫌だ。
色んな事があったけど、やっぱりナンバーワンを維持し続けてきたからこそ、あの位置に戻りたいと思うんだ。
「んんーっ!」
口元を押さえ付けられていた京介が、苦しそうにしているのに気付いて手を離す。
漸く解放された京介は見た事もないくらい不機嫌そうで、オレは少したじろいでしまった。
「な、なんだよ…」
「嘘つき…世莉さんは嘘つきです」
「はぁ?何子供みたいな事いってんだよ」
「俺はただ、世莉さんと過ごせる時間がほしいだけなんですよ…」
「はぁ…お前なぁ、あれだけ頻繁に泊りに行ってて時間がほしいってどういう事だよ。店でも会ってるのに」
そうなんだ。
実の所オレと京介は初めてエッチした日から、まるで恋人と変わらないだろう生活を送っている。
それもこれも京介が何かとオレと一緒に居たがるからで、それを拒みきれないのもオレなんだけど…。
店では毎日会えるが、京介はオレに触れられない事に不満を感じてるらしい。
だから仕事が終わるとアフターや用事のない時以外は部屋に来いと誘ってくるんだ。
それも二日に一回とか…。
そのせいで京介の部屋にはオレの歯ブラシとか替えのパンツが置いてあって、京介が着ていたスエットも今では泊りに行った時にオレの部屋着になってる始末だ。
更に言うなら今ではすっかり、セリ(チワワ)も木村さんの家の子になりつつある…。
このままじゃダメだ。
これじゃ本当に恋人と何も変わらない。
そもそも京介と付き合う気なんてない訳で、それなのに誘われると行ってしまうのは――
「俺は、もっと一緒に居たいんですよ…京介さん」
「――っ」
甘い誘惑。二人の時にしか呼ばない名前でオレを誘う。
こいつは本当にオレを好きでいてくれて、必要だと思ってくれてる。
好きだと言っても、恋人になってほしいとは決して言わない京介の気持ちにオレはまた甘えてしまうんだ…。
「その名前を店で言うんじゃねぇよ…」
「どうして?アナタは京介さんでしょう?」
「店で京介はおま――っんぅ!?」
京介は前触れもなく唇を重ねてきて、ビックリしたオレはドンとロッカーに背中をぶつける。
追い詰められる形になったオレに京介は口腔に舌を押し込んできて貪るように口付けた。
「んんーっ!は、バッ、店でそういう、んっ」
舌が擦れ合う度にゾクゾクと背中が震える。コイツのキスは本当にうまい。
息苦しいのにやめたくない…もっとしてほしいって思うようなキスをしてくるから夢中になってしまう。
「はっ…あ…京介…」
チュッと舌先を吸い上げられて唇が離れる…。
京介は欲情の色をたたえた瞳を向けながら、とどめの言葉を口にした。
「一緒に帰りましょう」
ああ、今夜もまた拒めなかった。