部屋に行かないと言ったオレを京介は無理矢理ホテルに連れ込んだ。
人目が気になって仕方なかったが、今の京介にそれを言える雰囲気ではなくて、部屋に入ると真っ先にバスルームへ連れ込まれた。
濡れたくなければ服を脱げと、半分命令のような言い種に何故か逆らえず、裸になったオレを上着一枚脱いだ京介が強引に浴室に押し込む。
「うわっ!?」
その流れのまま何も言わずに頭の上からシャワーをかけられて、ビックリして顔を上げれば今まで見た事もないような冷たい表情の京介がいた。
「なっ…、何…!?」
「黙ってください。怪我しますよ…」
「――っう…んむぅ!」
京介の指が何度もオレの口を擦る。流石に痛くて「やめろ」というが、それでも暫く同じことを繰り返された。
「も…やめろ!痛いって…」
「世莉さん…」
酷い事をされた後に、優しく重ねられた唇。その甘いキスに全身の力が抜けていく。
「アナタはいつから、あんな仕事のしかたをするようになったんですか?」
「あんなって…」
「言わせる気ですか…!」
声を荒げる訳ではない強い口調に、京介の怒りを感じてビクリと体が竦む。
言われなくても、さっきのキスが原因なのは分かってる。でも、オレ達はそういうのを確認し合う関係じゃない…。
「お前に、オレの仕事のしかたをいちいち言われたくねぇんだよ!」
「そうですね。でも俺は不愉快です」
「はぁ!?」
「ずっと言ってるでしょう、好きだと。アナタはどうなんですか?」
一瞬何のことか分からなかった。
でもすぐに初めて答を求められた事に気付く。驚きと戸惑いの中、何とか出た「知らねぇ」の言葉に、京介の眉間が深くなるのが分かった。
「アナタはいつもそうやって、大事な事をはぐらかす…」
「…っ」
言わないんじゃない、言えないんだ…。だって、オレ達は口にしたら壊れてしまうような関係だから。
そこで終わってしまうから――
「もう、疲れてしまいました…」
力なくその場に座り込む京介はオレと同じくらいびしょ濡れで、絞り出すように出した声は少し震えている。
そんな京介に何かをいう事もしてやる事もできないオレは、排水溝に流れるシャワーを見つめる事しかできなかった。
「今まで何も言わなかったのは、アナタを困らせたくなかったから…どんな形でも傍にいたかったからなんです…」
でも…と、凍りつくような冷たい視線が向けられたのが分かってハッとする。合ってしまった目を逸らすことができずにいると、ついに京介は本心を口にした。
「何も言わない事でアナタが離れていくなら、もう気持ちを隠すのはやめます」
今まで何度も京介から感じていた独占欲。それを直にぶつけられて胸が締め付けられる…。
「絶対に離さない…」
怖いくらいに真剣で重い――どれだけ京介の気持ちを軽く見てたのか今になって気付いた。
いつも感じてた…。見えない鎖に縛られてるのはオレばかりで、それを断ち切る事すらできないと。でも、実際縛られていたのは京介の方で、オレの曖昧な感情に振り回されていたんだ。
…それが分かったからと言って、もう全てが手遅れのような気がした。