その日、珍しく真っ直ぐ帰宅したオレは昔の事を思い出していた。
(悠聖さん…)
久しぶりに会ったけど、昔と何も変わってない。
まるで現役ホストみたいに派手な身なりで、中身も三十過ぎとは思えないほど落ち着きないし…けど、それが悠聖という人。
元、Queenのオーナーだ。
――なあ…
――なあ、世莉…
『世莉』
『はい?』
『お前さ、俺を目標にしてみないか?』
『え?』
『何かさ、お前見てると勿体ねぇんだよなぁ。小奇麗にして、そこそこ会話もできて酒も飲めるのに、何で上目指さないの?』
オレがホストを始めて間もない頃、悠聖さんに言われた言葉だ。
悠聖さんはオレにとって、とても大切で目標だった人。
ホストの仕事を一から教えてくれたのも、ナンバーワンを目指すようになったのも悠聖さんがいたからだ。
元々ホストだった悠聖さんは、それはもう華やかで…ホスト時代を知らないオレですら、その貫禄を感じるほどだった。
人当たりのいい接客や仕事に対する姿勢。何よりナンバーワンを長年経験しているカリスマ性に心底憧れた。
――この人みたいになりたい
それは、憧れを通り越していたようにも思う。
悠聖さんがQueenのオーナーをしていた時期は決して短くはなかったけど、オレが一緒だったのはたったの一年間だけ。
まあ、現在二十歳のオレはホスト歴自体長くないのだから、オレにとっての一年は短い時間ではない。
『別にさ、やるからには必死になれ!って方針でもないし、ルール守ってくれさえすれば好きにやってくれて構わないんだけど魅力に欠けるんだよ』
『魅力?』
『そ、この業界に限らず野心や夢持ってる奴には誰も勝てねぇよ。お前も一応ホストしてるなら辞める事考えるより、上目指す事を考えてみたらどうだ?』
『上を目指すというのが、悠聖さんを目標にする事なんですか?』
『そうだよぉ?俺、結構有名人だから。俺はお前にも俺の知ってる世界見せてやりたいよ』
――悠聖さんの知ってる世界
彼の知ってる世界はどんな場所なんだろう。
オレもそこにいけば、悠聖さんのようになれるんだろうか。
それは、ホストとしてナンバーワンを目指すには十分な言葉だった。
だからこそ許せなかったんだ…。
こんなにも強く惹かれてオレの世界を変えた人が、誰にも、何も告げずにQueenを去った事が。それは突然やってきて、いとも簡単に彼に対する感情を殺した。
恨まずにはいられなかった。
ホストを辞める事も、ナンバーワンを諦める事もできないオレに育てた悠聖さんが、憎くてたまらなかった…。
曖昧で適当なオレのなままなら、こんなに傷付くことはなかったのに…。
何故?
どうして?
何度となく思ってきた。
一度は捨てたはずの感情が胸の中でふつふつとこみ上げてくる。
(何で今になって…)
もうこんな気持ちになりたくなかったのに…。
寂しくて、辛くて、京介に「大丈夫ですよ」って抱き締めてもらいたかった。