アナタはQueen | ナノ




艶で話を聞いた後、オレ達は普段通り仕事に戻った。

「俺と世莉は来週からStella(ステラ)か。世莉…大丈夫か?」

稔さんはオレがホストを始めるよりずっと前からQueenにいる。
悠聖さんに対するオレの感情も知ってるからこその「大丈夫か?」なのだろう。

「一時的ですよ…すぐ戻ってきます」

「そうだな…」

オレも京介も稔さんも…納得できないし、不満もある。でも誰一人口にはしない。したらきっとQueenに居る事さえ嫌になるだろうから…。

それは、神田さんと悠聖さんという上の連中との溝を感じてるからこその想いなんだと思った…。





数時間前、艶――

「そろそろ話してくれませんか?」

悠聖さんが来てからも一向に本題に入らず、何の用で呼ばれたのか分からないまま時間だけが過ぎていく中、痺れを切らした京介が口を開いた。

「そういう所、兄ちゃんそっくりだな」

「兄の事は関係ないでしょう」

「まあね…」

やれやれと溜め息混じりに言いながら、悠聖さんは漸く本題を話し始めた。

「近々、店を出そうと思ってるんだよ。店の名前はStella(ステラ)、ホストクラブな。そこでお前ら三人の内誰か一時的に助っ人に来てほしいんだ」

店を出す、という言葉に何とも言えない怒りを感じた。
やっぱりこの人は過去の事なんか微塵も気にしていないんだ。まず先に言う事があるはずなのに、それもせず助っ人だなんてよく頼めたものだ。

(ふざけんな…)

個人的な感情を誰にぶつける事もできず黙っていると、稔さんが慌てた様子で悠聖さんに質問をした。

「京介や世莉はわかりますけど、何で俺なんですか?」

「ウチでもバーカウンター置くんだけど、まだバーテン見つからなくてさ。色々試してみたいし、稔が力になってくれると助かるんだよ、な?」

「え…えっ?」

今一状況を飲み込めない様子の稔さんに、神田さんは静かに頷いた。

「すまないが、稔が良ければそうしてもらえないだろうか」

「いや、でも…その間、Queenはどうなるんですか?」

「お前がいないのならバーは閉じる。あそこはお前の場所だからな」

「神田さん…」

ジーン、と感動している稔さんを見て、それだけQueenのバーテンという仕事を一生懸命にしているのを感じる。
稔さんにとってバーカウンターは自分の持ち場で、長い間管理し続けてきた場所だ。そこに他人を入れないという神田さんの気持ちが嬉しかったのだろう。

「で、ホストも今集めてる所なんだけど、ちょーっと戦力に欠けるんだわ。だからお前ら、どっちか来てくれねぇ?」

(オレか京介…一時的とはいえ、他の店で働く事になるのか)

この雰囲気を見る限り断る事は許されないのだろう。
京介も同じことを思っていたのか、オレが口を開く前にすかさず自分が名乗り出た。

「俺が行きます」

そう言った京介は何とも言えない顔をしていた。
元々表情から感情を読み取るのは難しい奴だけど、今は少し怒ってるように思う。
それはオレが京介と関係を持ち始めてから知った顔で、何となく口を挟んじゃいけない気がした。

「その事だが、京介はウチに残って世莉に助っ人に行ってもらいたい」

「オレですか」

神田さんの言葉に京介が眉間を寄せる。露骨に顔に出すのは珍しくて、京介の隣に座っている稔さんも驚いた顔をしていた。

「京介、お前はウチのナンバーワンだ。分かるな?」

「…はい」

腑に落ちない顔で返事をする京介は、それ以上何も言わなかった…。


こうしてオレと稔さんは来週から悠聖さんの店…Stella(ステラ)で働くことが決まり、京介とは暫く離れて仕事をする事になった。




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