アナタはQueen | ナノ




助っ人初日。
昼頃、悠聖さんから開店一時間前に店に来るようにと連絡があった。

「うわ…すげぇ…」

店の前に着くと、Stellaの開店祝いの花がぎっしり並べられてるのを見て驚いた。何処だって開店祝いに花が並ぶのは当然だけど、これでもかと言わんばかりに並んだ花に“悠聖”という人の実力を感じる。
今日一番目立っている店は間違いなくStellaだろう。

「あっ」

有名店の名前が並ぶ中、Queenとaglaia(アグライア)の名前に立ち止まる。aglaia(アグライア)は京介の兄貴の店だ。

(京介の兄ちゃんとも付き合いあるのか…)

確か…峰岸 涼(みねぎし りょう)。
名前だけしか知らないが、京介の話しでは食えない男だというのは聞いている。
あの京介が兄貴の話をする時に凄く嫌そうな顔を見せてたくらいだ。相当なんだろう。

この世界はどういう繋がりがあっても可笑しくはないけど、キャバクラのオーナーがホストクラブにスタンド花を贈るくらいだから、悠聖さんとは顔見知り程度の仲ではないのかもしれない。

(それか、京介の兄ちゃんが律儀な奴か)

京介の兄貴だから、そっちの方が強いのかもしれないと思って少し笑ってしまった。




「おはようございます」

「おお、来た来た」

声を掛けたオレに悠聖さんはパァッと明るい表情で迎える。

「悪かったな、早くに呼び出して」

「別に。あの…呼ばれたのってオレだけですか?」

「いや、もう一人いるよ」

その言葉の後“もう一人”が店の奥からやってきた。

「なっ…!」

「久しぶりだな、世莉」

「汐音(しおん)…!」

予想もしていなかった相手との再会にただ驚く。
そんなオレを汐音は足のつま先から頭の上まで値踏みするように見た後、クスリと笑ってムカツク事をさらりと言った。

「変わらないな、チビな所が」

「はぁ!?」

「その短気な所も変わらない。あ〜嫌だ嫌だ」

肩を竦めてわざとらしく溜め息を吐く汐音に、オレは怒りを隠すことなく睨みつける。その様子をヘラヘラした顔でただ見てるだけの悠聖さんにも怒りを感じた。

(誰がチビだよ!)

怒りのもとはそこなのだが、それを振り払うようにハッと鼻で笑って汐音を見た。

「そういうお前は相変わらずウゼェ下まつ毛だな、まつエクでもしてんのかよ」

「ふっ…俺の睫が羨ましいのか?ああ、お前が羨ましいのは俺の身長か」

「ふざけんな、羨ましい所なんて一つもねぇんだよ!つか、喋る度にピアス光って鬱陶しいっつーの!」

「自分が似合わないからって僻むなよ。何をしたって俺のようにはなれないんだから」

久しぶりに会ったというのに、このやり取りの変わらなさはお互い進歩がないように思う。だからと言って引く気なんか更々ない。汐音もそれは同じようで言い合いが続く中、そろそろ飽きたらしい悠聖さんが口を開いた。

「はいはい、オシマイ!これから暫く一緒に働くんだから、仲良くしろよ?元ナンバーワン同士さ」

「……ッ」

「……」

元、ナンバーワン。
わざとそう言ってるのだと、オレと汐音は眉間を寄せて悠聖さんを見る。そんな目でみるなよと、おどけた態度の悠聖さんにオレ達は言いたい事も言えずに顔を逸らした。

(元ナンバーワンか…)

それを言われて辛いのは汐音も同じだろう。むしろ、今の状態では汐音ほうが悔しいかもしれない。

それは汐音が元Queenのホストで、ナンバーワンから引きずり下したのはオレだからだ。

オレがホストを始めた頃は汐音がナンバーワンでQueenを顔だった。アイツの華やかさや、どこからくるのか分からない自信に憧れた事もあったが、オレがナンバーワンを目指した時点で汐音はライバルだった。
先ほどのやり取りの通り下らない口喧嘩から派手な物まで、汐音とはだいぶ揉めてきたがそもそも性格が合わないんだろう。

そのせいかは分からないが、汐音はオレがナンバーワンになると間もなくして店を辞めた。
その後の行方は全く耳には入ってこなくて、ホストを辞めたという噂もあったがまさか再会するとは思ってもみなかった…。

(偶然…じゃないよな)

行方の分からなかった二人が同じ時期に、同じ店に現れたんだ。偶然ではないだろう。
悠聖さんが店を去った時期と汐音が店を辞めた時期は左程変わらない事を考えると、二人はずっと傍にいたという事だろうか。

「…っ」

もしそうだとしてもオレには何の関係もない。
そう思っても、胸の中がモヤモヤして二人から顔を逸らした…。





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