「セリ、おはよ」
昼頃起きたオレはワンワンと駆け寄ってくるチワワを抱き上げる。
このチワワはオレの飼ってるワンコで名前はセリ。オレの源氏名はコイツからとった。
「ほ〜ら、沢山食って大きくなれよ」
セリに餌をあげてる間にオレはキッチンへ。
自炊なんかできないけど、腹は減るから適当に米炊いて納豆とか食う。
どうせ夜には外食するんだから、昼飯はいらないくらいなんだ。
メシが食い終わったら営業メール&電話。
「元気?最近会えてないよね…オレ寂しいからさぁ」
こういった内容を一日に何人にもして、店に来てもらうようにする。
同伴なんかもこの時に約束しておく事が多い。
夕方、支度が終わるとマンションの管理人さんの部屋にピンポン。
セリを預かってもらう。
「すみません、セリの事お願します」
「はいよ」
管理人さんは木村さんと言って気さくなオバちゃん。
娘達はみんな嫁いで、今は旦那さんと二人で生活してる。
旦那は製薬会社だかに努めてるらしいんだけど、よく帰宅する時にマンションの前で会う。
何となく、奥さんに尻にしかれてるっぽい。
何にしてもセリの面倒を見てくれて大助かりなんだ。
夜、今日は先日店に来てくれた愛が同伴してくれる事になってる。
待ち合わせ場所に先に来たオレは、繁華街の街並みに小さな息を吐いた。
キャッチに黒服、同伴中のホステス。
着物姿のママにニューハーフ。
この辺はみんなそう言った人達に会いにお客様が集まる。
こういう場所に立つと時々虚無感を感じるのは、オレもこの中の一人なんだと思わされるからだ。
だからこそナンバーワンという立場はオレには必要なんだ。
Queenという大きいホストクラブの世莉だから価値がある。
他と同じなら、別にオレじゃなくてもいいんだから…。
「遅ぇ…」
時計を見れば約束の時間はとっくに過ぎていて、愛にメールを送る。
「待ちくたびれた…待ってるぞ…と」
愛が時間にルーズなのは毎度の事だけど、ここまで送れるとイヤな予感がしてくる。
(まさか、来ないなんて事はないよな…)
冗談じゃない。同伴すると店に報告してるのに、愛と一緒に店行かなかったらとんだ恥さらしだ。一人で店に行くなんてオレのプライドが許さない。
「…ッ」
焦りが増す中、何とか落ち着こうともう一度メールを送ってみる。
それでも愛からの連絡はなく、痺れを切らせたオレは電話をかけてみる事にした。
(頼む、出てくれ)
そう願うも虚しく愛が電話に出る事はなかった。
「クソッ!」
今から同伴をお願いしてきて来てくれそうな人――慌てて電話帳の中から探してみる。
こういうのが一番困る。
来れないなら来れないと連絡を…いや、それ以前に同伴の約束をしないでほしい。
本当だったら今日はゆかりと言う子が同伴したがってたんだ。それなのに愛がどうしてもって言うから…。
怒りが増す。
けど、愛は客だ。彼女じゃない。
自分の感情をぶつける事は出来ないんだ。
それを分かってるのに怒りが込み上げてくるのは、オレがナンバーワンから落ちた焦りと自惚れ。
自覚のないこの感情に、オレは後々苦しめられる事をまだ知らない。