アナタはQueen | ナノ




「っだ!ムカツク!!」

ドンとジョッキをカウンターに叩きつけるように置く。

仕事上がりにどうしても酒が飲みたくて、最近よく行く店に来ていた。
同じビルの下の階にある小さなバーだ。
従業員はマスターとバイトが日替わりで2人。

今日は俊(すぐる)という顔だけ男がバイトの日で、オレの様子に露骨に舌打ちをしてきた。

「セリ、荒れるなら余所でやれ」

俊は顔はいいが口と態度はすこぶる悪い。
そういうのも込みで俊とは気が合ってるような気がするが、生意気な奴だとも思ってる。

「うっせ、飲まずにいられない時があんだよ」

「どうせまた、キョースケだろ。聞き飽きたって」

「その名前を口にすんな!」

「へいへい」

俊は煙草を一本取り出し、キンと音を立てながらジッポに火をつける。
この店は客もスタッフも気軽さが売りだからニコチン中毒の俊でも働けるようなシステムになってるが、元喫煙者には憎らしいだけだ。

オレも元々煙草を吸っていて割と早い時期からニコチンを接種してた訳だけど、今の仕事を始めてやめた。
うちの店は客の前での喫煙NGで、吸えない間辛いから禁煙する事にしたんだ。

その話をした事があるにも拘わらず、俊は「オレには関係ないし」と言わんばかりにバカバカ吸っているのがムカツク訳だ。

「煙てぇんだよ!」

「アア?じゃあ、煙が入ってこないように穴っていう穴を全て塞いでやろうか?」

「お前は何でいつもそうな訳?オレお客様だけど?」

「はいはい、お客様お代わりは?」

俊はいつの間にか空になったジョッキに煙草を挟んだ指を向けてきて、オレは「早くもってこい」と吐き捨てるように言う。
待ってる間、俊の後ろ姿を見ながらカウンターに突っ伏した。

(京介ぇ…)

ふと一人になると思い出すのはオレをナンバーワンから見事に落とした京介の事ばかりだ。勿論それはキレイなものではなく、どす黒くて憎しみたっぷりの感情。

アイツ元々どこかで働いてたんだろうか。接客といい初めてのように感じない。
まあ…確かに、見た目はキレイ系だし丁寧な口調が紳士って感じで女性受けは良さそうではある。
何ていうか、汚れてない…。
どちらかと言えばホストよりファッション雑誌のモデルの方が向いてるんじゃないかと思う。

それでもアイツはホストとして申し分ない実力を持ってるから余計にムカツクんだ。
何より感情が読み取りにくいあの表情。
オレはあいつの、あの顔が一番嫌いだ。あと名前。

「おい、寝るな」

「寝てねぇ…」

間もなくしてビールの入ったジョッキを持ってきた俊が、気怠そうにオレの横に腰を下ろした。

「セリ、オレにも何か飲ませろ」

「ああ…?」

腰を下ろして酒を飲む…つまりは「話くらい聞いてやる」という事だろう。

俊は口も態度も悪いが根はいい奴だ。
オレの様子を見て俊なりに考えての行動だと思った。

「はぁ…しかたねぇな。好きなモン選べ」

「じゃあ、店で一番高いやつ」

「ふざけんな」

結局、俊が選んだのはオレと同じもので。
コイツの優しさに少しだけ救われた気がした。




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