19時、出勤。
…だが、同伴のあるオレは遅れて出勤する。
同伴の場合は遅れても遅刻にならないのは、対外どこもそうだ。
今日はいつも指名してくれるアカネさんと同伴。
軽くメシ食って、酒飲んで…アカネさんはホスト遊びを知ってるお客だから凄く楽なのが正直な所。
変に期待したり枕したがる子もいるけど、オレはそういうのはやらない。
「アカネさん、ちょっと待っててネ」
出勤と同時に指名が被るのは基本。
オレという人間は一人しかいないから、指名が重なった時はヘルプを頼む。
今日はまだ剛が空いてるとの事で、少しだけヘルプを頼むことにした。
「剛、頼んだ」
「お任せください。アカネさん、こんばんは!」
「ふふ、今日は剛君がヘルプしてくれるの?」
「ヘルプと言わず、俺に乗り換えませんか?」
「そうね、世莉どうしようか?」
「そんなの困りますよ。剛、オレのアカネさん誘惑してんじゃねぇよ」
「はは、すんません」
“オレのアカネさん”は当然ながらリップサービスの一つ。当然アカネさんもそれを分かってての会話だ。
剛も上位組を維持してるだけの事はあって、お客様の相手は手慣れたもんだ。アカネさんも楽しそうに笑ってる。
本当ならヘルプなんかやる立場じゃないんだけど、忙しければ空いてるホストがヘルプをやる事もあるんだ。
「お待たせ〜!」
「世莉、おっそーい」
アカネさんと指名が重なってるのは愛という子。
20歳、風俗嬢。
「あれ、今日仕事休み?」
「ううん、さぼり…」
ふと表情を曇らせる愛に、すかさず声を掛ける。
「どしたぁ?何かあった?」
「世莉ぃ、聞いてよ!」
「おう、言ってみ」
キャラ分け、と言うのがあれば愛の前でのオレは兄貴キャラ。
可愛い妹分を労わってやるような気さくな兄貴だ。
愛は同い年だけど酒を飲むと甘えたくなるタイプらしいから「可愛い、可愛い」と連呼してるだけでも嬉しそうにする。
そういう子は下手に意見を言うより、甘えさせてやるのがオレ流。
「彼氏がさ、浮気してるっぽいんだよね」
「彼氏って同じ店の?」
「そう、あいつ私以外にも店の子に手だしてると思うんだ」
恋愛相談もホストの仕事の一つ。
色で売る奴もいるけど、こういう場所に来る子の中には友達感覚で話したがる子もいる。
こうして話を聞いて、ボトルを入れてもらって、オレの売り上げが上がる訳だ。
「愛は――」
「そんな男、やめておいた方がいいですよ」
「――!」
突然、会話に入ってきたのは憎き京介。
コイツは何のつもりで邪魔しに来たんだと、愛にバレないように睨みつける。
「交代です」
涼しい顔で言われてヘルプを頼んだ剛を見れば、自分のお客が来店したらしく会話してる姿が見えた。
自分の客が来たなら仕方ないが、何故コイツなんだ?と眉間が深くなるばかりだ。
「…はっ、お前がヘルプ?」
現ナンバーワンがヘルプだなんて笑えるな、と鼻先で笑ってやる。
京介はそんな挑発にはのらないと言った感じに表情一つ変えず、アカネさんの所へ行くよう目線で促した。
(ムカツク…)
気に入らない、名前からして気に入らない。
そうは思っても今は仕事中だ。気持ちを切り替えてアカネさんの元へ向かった。
その数分後には京介ラッシュが来る事も知らずに…。