――ホストクラブ「Queen(クイーン)」
この辺じゃ一番大きなホストクラブで常連客は勿論、新規のお客様も絶えない。
日々混雑しているのはオレの実力だと言っても過言ではないだろう。
何故なら――
「今月のナンバーワンは世莉(せり)」
そう、このオレがナンバーワンだから!
「世莉さんすげぇっすね、今月もナンバーワンじゃないっすか」
「おう、お前もいいとこまでいってんだけどな」
がはは、と高笑いをしながら今月もナンバー3の剛(ごう)の背中をバシバシ叩く。
「よし、みんなメシ行くぞ!オレの奢りだ!」
うおお!とその場にいる奴らが声を上げる。
みんなを引き連れて、閉店後のQueenを後にした…。
と、言うのが先月の話。
今月…今まさにこの瞬間、オレの人生の中で有り得ない事ベスト5が起きた。
「ナンバーワンは京介だ」
「ありがとうございます」
まさか先月入ったばかりの新人に今月のナンバーワンをもっていかれるとは、ここに居る誰もが予想してなかっただろう。
今月もナンバーワンの筈だったオレは、この出来事が夢か何かじゃないかと目をぱちくりさせていた。
「ナンバー2は世莉。お前、新人に差つけられてるぞ」
「……」
開いた口が塞がらない。
茫然とするオレの横を、何て事ない顔で通り過ぎる京介に怒りが込み上げた。
(ふざけんなッ!)
Queenのナンバーワンはオレだ!
ホストを良く思わない人もいるかもしれないが、この世界は厳しいという事を分かってほしい。
まずオレ達は朝寝て、夜起きる。
サラリーマンが会社に行く頃に帰宅して、暗くなってから起きるんだ。
同伴がある日は(オレの場合はほぼ毎日だけど)暗くなる前に起きて営業メール。
指名してくれるお客様含め、席に着かせてもらった人にお礼を欠かす訳にはいかない。ただ送るだけなら意味がないから甘い言葉と、俺は飼ってる犬の写メを添付しておく。親しみやすさも忘れずに。
そして男でありながら身なりもきちんとしなきゃいけない。
髪型は勿論、肌の手入れから酒太りしないように体も絞って…やってる事は女子と変わらないんじゃないだろうか。
他にも人気が出ると情報誌などの撮影もある。
オレくらいになるとQueenのセンターはってるから、この業界では割と顔を知られてる。
話術は当たり前に必要なスキルで、酒は飲める方が断然売上も違う。
何より大事なのは礼儀だ。
お客様は当然だが、上下関係の厳しい業界じゃないかと思ってる。
それらを熟してこそのナンバーワン。
それが、このオレ世莉なんだ。