アナタはQueen | ナノ




久しぶりの京介の部屋はいつもと変わらないのに、妙に広く感じて落ち着かない。
京介も同じなのか、どこかソワソワしてるようにも見える。

こういう気持ちは感染するんだ…。

仕事でも自分がつまらないと思えば相手にその事が伝わってしまうのと同じで、こういう時は空気の読めない奴がいると案外助かったりする。
けど今はオレと京介しかいなくて、この場はオレが空気を壊すしかないと思ったんだけど…

「たまには、飲みませんか?」

その役目は京介がやってくれたらしい。

「いいぜ、先につぶれるなよ?」

そうだな、こういう時は酒に頼るのがいいのかもしれない。
酔えば少しは素直になれるだろうから…。




京介と酒を飲むのは初めてエッチした時以来だ。
けどあの時はまともに飲んだとは言えなかったし、こうしてゆっくり飲むのは初めてになる。
京介がガバガバ酒を飲んでるイメージはないけど、コイツがナンバーワンを張ってるという事はそれなりに飲めるという事だろう。

(だが負けねぇ!)

照れ隠しに自分に言ってみる。本当はそんな事どうでもいいんだ。
気が緩むと色んな気持ちをぶつけてしまいそうだから気丈でいようと思っただけ…。

が、しかし、酒が入り時間もそれなりに経つと、気持ちも状況も変わってくる訳で…。

「お前、何で今日オレの事避けたんだよ!」

もし…この記憶がシラフの時に残っていたら、オレは間違いなく旅に出るだろう。
そのくらい余計で恥ずかしい事を今のオレは口にしてるという事だ。

「別に、避けてたわけじゃ…」

「嘘つくな!じゃあ何だよ、ハッキリ言え」

「その…どう接していいのか…分からなかったんです…」

「あ〜!?」

「だから…アナタが俊さんと親しいようだから…」

「はっ、嫉妬か?バカらしい!何を嫉妬する事があんだよ」

そう言って500缶のビールを一気に流し込む。
これは間違いなく二日酔いコースだ。だが今は面白いくらい酒が進んで気分が良い。

「俺は京介さんに何か言える立場じゃないから…」

「…うっ」

嫌味か本心か…何にせよ今、胸にグサリと刺さるものを感じた。

けど、そうだよな…コイツもオレと同じで、この関係に戸惑いを感じてたんだ…。好きだと言えても相手の行動を束縛する事は今のオレ達じゃできない。

だってオレ達は体だけの関係で、まだ心まで確かめ合ってないから。

「いいよ…オレ、お前になら色々言われても…」

流石にこのセリフは酔ってても自分の中じゃ有り得ないほど恥ずかしいものだったらしい。何となくモジモジしてしまう。

「京介さん…!」

感極まってだろう斗真がオレに近付いてくるのを、グイッと手の平で押し返す。
それは、オレの中の不安が消えてないからだ。

「つか、昨日…何で愛と一緒だったんだよ…」

「ああ、それを聞くんですね…」

斗真は困ったように元の場所に座り、どうしようかと言葉を探してるようだ。
その様子にオレは「そんなに言いたくないのか」と勝手に思って落ち込んだ。

「教えてくれねぇの…?」

「――っ…」

何故か斗真の顔がカァッと赤くなる。
こんな斗真の顔は見た事がない。きっとシラフなら何度も見返してしまうほど珍しいが、今のオレにはそんな事どうでも良いことだった。

「分かりました…言いますけど、引かないでくださいね」

「分かった」

一応な、と胸の内で付け足す。
斗真は息を吐いて観念したように話し始めた。

「本当は電話しようと思ったんです…」

「電話…?」

「ええ。昼間に用事が終わって時間が余ったら、京介さんが何してるのか気になって…」

「うん?」

「つ、つい、京介さんのマンションの近くに…」

「は?お前、家まで来たの?」

「近くまでです!迷惑になると思ったので、そのまま帰ろうとしたら愛さんから連絡があって、近くに居るから会おうと…」

「へー…」

正直ちょっとムカついた。オレの迷惑なんか気にしないで家に来ればよかったのに、愛の誘いにのった斗真にムカついた。

(でも…)

斗真もオレと同じ事を考えてくれてた事は嬉しかった。
同じ気持ちなら遠慮なんかしないで連絡くらいしてもいいのかもしれない。酔った思考でそんな事を思う。

「すみません、本当…俺も何やってるんだろうって思ったんですけど…気になって…」

「いいよ、オレも同じだった。斗真何してんのかなって思ってたから…」

斗真の顔を覗き込み、オレの方からキスをする。
驚きに目を見開く斗真は普段のコイツからは想像できないほど可愛くて、チュッチュと何度もキスしてやった。

「きょ…京介さん…!?」

「なあ、お前さ…愛とヤッた?」

俊に言われた「その女キョースケに食われてんじゃねぇの?」という不安を口にする。
すると斗真はオレの両肩を掴んで体を押し返し、ジト目と呼ばれるソレでオレを見た。

「怒りますよ…?まだオレの気持ちが伝わりませんか?」

「ごめん…違う、オレも愛に嫉妬したから…」

絶対にこんな事シラフじゃ言えない。いや、もう一生言えない。
でも今は久しぶりに触れた斗真の暖かさと安心感に、コイツを喜ばせる言葉を惜しみなく言いたいと思った。

「エッチしよっか…」

ほらな、普段のオレがこんなこと言えると思うか?
不思議だよな…きっとオレは今、酒と一緒に斗真に酔ってるんだ。





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