帰り際、俊に本当の目的を聞いてみた。
「で、店に来た本当の理由は?」
「別に。たまには営業しねぇと、お前ヤッてばっかで店に来ねぇからな」
何だ、やっぱりそういう事か。
俊なりに昨日の事を気にして様子を見に来たんだ。口にはしないけど、根は悪い奴じゃないから何となくそう思った。
「やっぱお前って不器用…」
「うるせぇ」
不愉快そうな顔をしながらその様子はどこか照れてるようにも見える。
少し俊に対してのイメージが変わったみたいだ。
「なぁ、キョースケ」
「はい」
俊はまるで悪巧みでもするかのように京介の肩に手を回し、ニヤニヤ厭らしい顔をする。また余計な事をする前触れだと分かったが、とりあえず黙って様子を見る事にした。
「お前にとって良い話か分かんねぇけど、セリの事で一つ言っておくわ」
「え…世莉さんの?」
「あー、どうしようかなぁ。知りたい?」
京介が素直に頷いて良い物か躊躇した様子でオレを見るから呆れ顔で肩を竦める。
それをどう捉えたのか、京介はコクコクと数回首を縦に振って俊に答えた。
「コイツな、うちの店に来ると必ず…」
「必ず…?」
このタイミングでエレベーターが来て、俊は京介の肩を離す。
中途半端に話をされてもどかしそうな京介に、俊はケラケラ笑いながら言った。
「お前の話ばっかすんだよ!」
「えっ」
「ウゼーから、あんまキョースケ、キョースケ言わせんな」
愉快でたまらないと言った様子でエレベーターに乗り込む俊に、オレはお客様の手前真っ赤な顔で見送るしかできず「後で絶対仕返ししてやる」と心の中で誓った。
「待ってください」
京介はドアを閉めようとした俊を呼び止めて、昨日と同じ展開を繰り返す。
「世莉さんはウザくないです。可愛いと訂正してください」
「は…?ぷっ…あははっ!」
俊が爆笑してる…初めて見た。
どちらかと言えば笑うイメージのない俊の姿に、思わず目をぱちくりさせる。
もしかしたら、京介と俊は気が合うのかもしれない。この二人はくだらない事で言い争いできる奴らだからな。
「はー…笑った。お前の面白さに免じて、今回は可愛いって事にしとくわ」
「ありがとうございます」
「じゃあな!」
今度こそと俊がエレベーターのボタンを押す。
オレと京介は「ありがとうございました」と俊への接客を終えた。
俊が帰った後、エレベーターの前で京介と二人になる。
デジャヴ…つい最近も同じ場所で京介と二人っきりになった事を思い出す。
何となく京介が動かないからオレもそのまま立ち尽くしてる状態で、無言に堪えられず言葉を探していると京介の方から話し掛けてきた。
「世莉さん、あの…」
珍しく京介が困ってるというのが表情から感じ取れた。
戸惑い気味に手の平を首筋に置いて、普段キリッとした眉が下がってる。
何だかそれだけでオレの気持ちが晴れてくのが分かって、凄く可愛いと思ってしまった。
「あのさ、今日お前の部屋行っていいか…?」
「えっ…」
「ア、アフターなら待ってるから…」
ああ、恥ずかしい。
素直になると恥ずかしくて、少し泣きそうになるのは何でだろう。
赤い顔を見られたくなくてクルリと背中を向けると、そっと京介がオレの肩に触れた。
「こんなに仕事が終わるのが待ち遠しいと思ったのは初めてです…」
(オレだってそうだよ…)
また剛が邪魔しに来たら困るから京介の大きな手を一回ぎゅうっと握った後、背中を向けたまま店に戻った。