俊が連れてきた女の人は俊の働くNEXT(ネクスト)のお客で、上の階に知り合いのホストがいると話をしたら連れてきてくれたとの事だ。
まあ、大学生の俊が自腹でホストクラブに来るわ訳もなく、当然分かっていた事だけど惜しみなく金をだす女性も女性だと思う。
そういう意味では女性を扱うのが上手い俊は、バーで働くよりウチに来た方が絶対に稼げる。ホスト向きなのに少し勿体ないと思うけど、それを口にする事はオレのプライドが許さない。
そして問題の、オレに聞きたい事というのが…
「なあ、セックス気持ちいい?」
俊のグラスにアイスを入れながら、ついでに毒でも入れてやろうかと思う程ムカついた。
「お前さ、本当にそれしか頭にないの?ヤル事ばっかじゃねぇか」
「真面目に聞いてんだよ。男同士ってどうなのかってさ…」
作ったばかりのアルコールに口を付け、少し困ってるような表情に何となく真面目に聞いてるという事は感じ取れた。
俊は同性で想う人がいるんだろうか。
「…そーだな、悪くねぇんじゃねぇの」
「そっか…悪くねぇのか」
一人で納得したように「だよなぁ」と口にする俊に年相応の姿を見た気がした。
俊はいつも生意気で口も悪いが、どこか落ち着いた雰囲気がある。それだけに今の俊からは可愛げを感じて少し笑えた。
「お前、いつもそうだといいのにな」
「ああ?」
「別に、お前のそういう素直な所が羨ましいと思ってさ…」
本当にそうだ。
バカみたいにヤル事しか考えてないけど、思った事を口にできる俊が羨ましい。
オレも少しは態度や言葉で京介に気持ちを伝えられたら、今みたいな溝はできなかったんだろうな…。
「セリ」
「ん?」
「オレはお前の方が羨ましいけどな」
「は?どうしたんだよ、珍しい」
「お前、アイツの事好きなんだろ?ちゃんと好きって自覚があるのが羨ましいよ…」
もう何本目になるのか分からない煙草をふかしながら煙を目で追う俊を見て、やっぱり好きな人がいるんだと思った。
けど俊はその事に気付いてなくて、この煙みたいに気持ちの中がモヤモヤしてるのかもしれない。
そうだよな…好きって自覚する事は当たり前の事じゃない。
俊は今その人への気持ちが愛情だと気付いてないだけなんだ。
それに気づけば、あっという間。
…ああ、恋してるなって嫌でも思う。
オレが今まさにそうだから、俊のその気持ちが良く分かる。
きっと、時間の問題だ。すぐに何等かの答えがやってきて、その時に自分がどう対応するかで関係が変わるんだ。
それを分かってるのにできないオレは、やっぱり京介の優しさに甘えていたんだと思った。
「俊、お前って意外と不器用なんだな」
「器用だと思った事はねぇよ」
俊がホストに向いてると思った事は訂正しよう。
お前はのほほんと大学生をやってればいい。
せいぜい、青春を謳歌してろ。