アナタはQueen | ナノ




「おはようございます」

「…おはよ」

翌日、京介は普段通り何を考えてるのか分からない様子で挨拶をしてきた。
それはもう怒ってるのか、何とも思ってないのか感じ取れないほど京介らしい顔で。
だが普段なら何かしら会話をしてから待機するのに、今日は挨拶もそこそこに更衣室を後にする京介を見て、やっぱり怒ってるんだと思った。

「はあ…」

溜め息が漏れる。

京介は何を考えてるんだろう。
怒ってるならそうだと直接言ってくれればいいのに、何で避けるような態度をとるんだ。

でも、そうさせたのがオレだとしたら、ちゃんと謝らなきゃいけないんだろうな…。
思えば京介はいつもオレを受け入れてくれて、怒った所なんて見た事がなかった。
それだけに、昨日の事がそれほどまで納得いかない事だったのかと疑問さえ感じてしまう。

拒絶…なんだろうか。

京介がQueenに来たばかりの頃、似たような気持ちになった事がある。
アイツの読み取りにくい表情が「お前に見せる感情はない」と言ってるみたいで気に入らなかった。
それはオレに好意を寄せてくれていたからで、決して拒絶ではない事を京介の言葉や態度で感じる事ができた。

でも今は違う…あの態度は好意じゃない。

そうなると気になるのがオレ達の関係だ。

色々聞きたい気持ちがあるのに聞けないのは、もうプライドの問題じゃない。
今まで何でも受け入れてくれた京介から、否定の言葉がでるかもしれないという恐怖があるからだ。

もし「お前なんか必要ない」って京介が思ってたら、オレはどうしたらいいんだろう。
オレ達は付き合ってる訳じゃないから別れの言葉も必要なくて…それは同時に、お互いの気持ちを確かめ合う事が難しいという事だ。

自分が望んだ関係なのに辛くなるなんて勝手すぎる。

それでも京介の気持ちを知りたいと思うのは、オレの我が儘なんだろうか…。




開店して数時間後、店が一番忙しい時間帯に入った。
ヘルプを頼んでお客様の間を行ったり来たりして、何とかひと段落した所で予想外の客が来店してきた。

「よお、働いてんなぁ」

「おま…なんで?」

新規で指名が入ったと聞いて席に来てみれば、そこには昨日会ったばかりの俊がいて心底驚いた。
ホストクラブは男の来店は禁止だ。
だが俊もその事を知っていたようで、ちゃんと女性と同伴してきている事に抜け目がないなと感心してしまう。

女性同伴なら男も入れる店は少なくない。
うちもその一つでホステスなんかがアフターで遊びに来る事もあるから、システム上問題はないんだけど…

「何でお前がいるんだよ!」

「客だよ、客。見りゃ分かんだろ?接客しろ」

「テメェ…」

ギリッと歯噛みし睨みつけると、俊が「そんな顔を客に向けていいのか?」と史上最強に偉そうで腹が立つ。
こいつはどうして、こうも生意気なんだ!

「失礼します」

その声にオレの心臓が大きく一回跳ねる。

(京介――)

まさか京介まで呼んだのかと内心あたふたしてると、俊が連れてきた女性の方に腰を下ろしたのを見て「やっぱり」と肩を落とした。

(信じらんねぇ…)

昨日の事があるだけに、俊が何を考えてるのか全く理解できない。
文句を言いに来たと言う感じでもなく、普段通りムカツク顔をこっちに向けてるだけだ。

「お前、何しに来たの?」

言いながら俊の斜め向かいに腰を下ろす。
本当に何しに来たのか分からなくて真面目に聞いたオレに対し、俊はただ口元を緩めてる。

「遊びに来たに決まってんだろ」

俊が煙草を一本取り出すのを見て、すかさず火を向けた。
これは完全に職業病。相手が俊じゃなくても反射的にやってしまう。

「おぉ、偉いな。ちゃんとホストしてんじゃねぇか」

煙草の煙をふかしながら満足そうに笑う俊を黙って見つめる。
何も言わないオレに、俊は漸く本題らしき言葉を口にした。

「何かさ、勘違いしてたなぁと思って」

「何が?」

ふと顔が近付いてきて、俊のすらりとした目がオレを見上げる。
そして意地の悪そうな顔をしながらオレにだけ届くような声で言った。

「お前、キョースケとデキてたんだ?」

全く予想してなかった言葉に、頭の中が真っ白になったんだと思う。
「へ…?」と間抜けな声が出た後、次の言葉が全く浮かばず戸惑っていると、俊はその様子に「決まりだな」とソファーに深く座り煙草をふかした。

「別に脅そうってんじゃねぇよ。“もしそうなら”聞きたい事があっただけ」

わざとらしい言い方だ。
「もしそうなら」なんて確信を持ってる俊が言うのはおかしい。
けど、もういい訳できない態度をとってしまっているのも確かで、感じた事のない感情にただ俊を睨みつける事しかできなかった。

「とりあえず、何か飲み物つくって」

仕事でも絶対にしないだろう満面の笑みで、語尾にハートマークさえ見えてきそうな気持ちの悪い言い方に、オレは渋々グラスに手を伸ばした。





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