アナタはQueen | ナノ




「あー、世莉だ!こんな所で何してんの?」

この高くてノリの良い声――まさか…と息を呑み嫌な予感を感じながら振り返る。

「あ、愛…!って…え…?」

そこには予想した通り愛がいて…何故か京介までいた事に頭の中が真っ白になる。京介も珍しく驚いた顔をしていて、一瞬言葉が出てこなかった。

「世莉さん、何…してるんですか?」

「京介こそ、何で愛と…?今日休みだろ…」

何となくピリピリした空気が流れる。京介の表情はいつもと変わらないのに、どこか不機嫌そうに見えるのは気のせいだろうか。
何故かは分からないけど、下手に言葉を口にしない方が良いような気がして黙っていると俊が間に入ってきた。

「何、コレがキョースケ?へぇ、イケメンじゃん」

言いながら俊がジロジロと値踏みするように見るのに対し、京介は冷ややかに目を細める。
怒っている…とも見て取れる京介に、オレは慌てて俊の腕を引いて京介と距離をとった。

「俊、お前もうバイト行け」

「なーんで、面白そうだからもう少しここに居る」

「いいから!」

ぐいぐいと俊の腕を引くが、コイツは背が高い上に力もあるようで全く動かない。
セリのリードをしっかり持ち直し更に試みようとした途端、今度は愛が俊に声を掛けた。

「すっごいイケメン!世莉の友達?ね、ね、紹介してよ世莉」

「何だこのブ――むぐっ!?」

「あああッ!!」

背の高い俊にしがみ付くように、慌ててコイツの口を手で塞ぐ。

俊の奴、今絶対ブスって言おうとした。
そんな言葉を愛に聞かせたら怒りを通り越して大泣きされかねない。

俊にとって女の子の大半は「ブス」で、それがどんなに可愛くても女は「ブス」か「メスブタ」なんだ。
黙ってれば本当に良い男だけど、こういう所がイヤでいつも彼女に振られる事をコイツは自覚してない。

「何だよチビスケ、オレがここに居ると何かマズイ事でもあんの?」

マズイ、俊が生き生きしてる。
こういう時の俊は「良からぬこと」を考えてる時だと最近知った。

(このままじゃ、ここに居る誰かが俊の被害にあう…)

嫌な汗が出る。頼む俊、余計な事はしないでバイトに行ってくれ!…と願うオレを余所に、もう一人の面倒くさい男の存在に愕然とする。

「すみませんが、世莉さんはチビではありません。小柄と訂正してください」

(京介――お前…そんな、どうでもいい事…)

ふ…と力が抜けて眩暈のような感覚によろめく。
それでも倒れずに持ちこたえたオレの視界に飛び込んできたのは、長身組の睨み合う姿だった。

「あぁ?チビはチビだろ」

「違います、確かに世莉さんは細くて背も高いとは言えませんが、それは小柄だからです」

(お前ら…そんな事で揉めるなよ…)

チビとか小柄と言われて傷付いてるのはオレだという事を分かってほしい。
そもそもオレはチビじゃない。一般男性の平均身長くらいはある。

…いや、嘘だ、平均より若干小さい。
だがチビじゃない。京介と俊がやたらでかいだけで、それをチビだの小柄だの勝手に言ってるだけだ。

「きゃあ、イケメン同士が睨み合う姿って何かドキドキするね」

愛…お前はなに頓珍漢な事を言ってるんだ?
そんな事を思うより先にコイツ等を止めてくれ。

「ああ、もう!お前らいい加減にしろよ!!京介、俊につっかかんじゃねぇ!」

咄嗟に出た言葉の後、しまったと思った。
慌てて京介を見ると案の定、不機嫌そうな顔をしていて目を逸らす。

「…世莉さんは、この方を庇うんですね」

「そんなんじゃねぇよ…」

別に俊を庇うつもりで言った訳じゃない。京介の方が聞き分けが良いと思ったから出た言葉だ。
けど、京介にそれは通じないようで益々不機嫌になっていくのが分かる。

「愛さん、行きましょう」

「いいの?京介」

「ええ。では世莉さん、またお店で…」

スッとオレの顔ひとつ見ずに通り過ぎる京介に眉間が寄る。
京介が何を思っていたかは分からないけど、オレはこの胸の中に渦巻く感情に立ち尽くしたまま俯いた。

(何だよ…お前こそ、何で休日に愛と一緒なんだよ…)

用事があって出掛けてたのか?
それとも偶然会っただけ?

何にせよオレは二人が一緒に居た事に嫉妬した。
並んでる姿を見て男と女なんだって、その事に一番ショックを受けたんだ…。

(電話しなくて良かった…)

ほら、やっぱり“壁”があるからこそ傷付かなくて済む事がある。
オレ達はどうやっても特別な関係にはなれないんだ…。

「俊、悪かったな…」

「別に」

さっきまでオレンジ色だった空も薄ら暗くなってきた。
セリが小走りで歩く姿に目を向けながら、重い足取りで家へ向かう。

その背後で俊が意味深に笑っていた事にも気付かずに…。




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