アナタはQueen | ナノ




「おい、そこのホスト止まれ」

「あぁ!?」

突然、背後から聞き覚えのある生意気な声がして眉間を寄せながら振り返る。

「まーさーか、お前とこんな所で会うとはなぁ」

声を掛けてきたのはNEXT(ネクスト)の俊(すぐる)。オレの行きつけのバーでバイトしてるヘビースモーカーだ。

顔だけ男と偶然会って驚きつつも悪態を吐くオレに、俊は相変わらず生意気な態度で返す。
俊とは基本的にいつもこんな感じで、これが口の悪いコイツに合わせた会話の仕方だ。

「何お前、今日休み?犬の散歩なんて笑えるな」

「うっせんだよ!犬って言うな、ワンコって言え!」

「何がワンコだよ、気持ちわりぃ」

「くっ…てめぇこそ何してんだよ」

「オレはこれからバイト。散歩なんかしてねぇで飲みに来い」

「残念だったな、今日は休肝日だ」

「けっ、それでもホストかよ」

「ホストも休まねぇとやってらんねぇんだっつーの」

「あっそ。つか、最近飲みに来ねぇじゃん。オンナでもできた?」

「んなもんいねぇよ、オレは暇じゃねぇんだ」

「暇じゃない、ねぇ…」

言いながらオレとセリを交互に見る俊に「うっ」と詰まる。
俊から見れば「忙しいのに休日に犬の散歩なんかしてるんだ?」と言ったところだろう。
本当にコイツは生意気な奴だ。

「用がねぇなら――」

「なあ、キョースケは?キョースケとどうなったんだよ、お前」

オレの言葉を遮って、思い出したかのように京介の名前を出してくる俊。
その顔は何かを期待してるようで、たじろいでしまう。

「なっ…どうって…何が?」

「あ?ナンバーワンとられてからどうなったって話だよ。ついでに何だっけ…ほら、女も取られてんだろ?指名の」

「ああ、愛か…それはもう終わった話だ」

「へー、つまんねぇ。もっと揉めろよな」

「残念だったな、オレは寛大な男なんだ。ガキじゃねぇんだから揉め事なんか起こすかよ」

と、言いつつ京介の胸倉を掴んで攻め立てた事を思い出して心の中で苦笑する。
俊は基本的に人の不幸が好きな奴だから、下手に餌なんか与えたら大変だ。

「愛は京介一筋だからな。それはそれでいいんだよ」

「へぇ、その女キョースケに食われてんじゃねぇの?女なんて抱かなきゃ手なずけられねぇだろ」

「それはない!」

どこか悔しそうな俊にキッパリ言い放つ。
あまりにも直球な言い方だった為に俊は一瞬驚いた顔をしたものの、すぐにニヤリと意地の悪い顔を向けてきた。

「何でないって言えんの?あー、もしかして?」

「な、何だよ…」

「お前、その女とヤッてんだろ?まさか本当にデキてるとか?」

「は…?」

俊の言葉に拍子抜けしてしまう。
オレは何を焦ってたんだろう。そうだ、普通に考えれば「京介と」とは思わない筈なのに…。

(うわ、やべぇ…)

無意識に京介の事ばかりで、不意打ちに対応できていない事にゾッとした。
京介は男で、世間から見ればオレとの関係を疑う奴なんてそうはいない。
なのに真っ先に「京介との事を疑ってる」と思ったオレは相当重症だ。

そう思ったら急激に恥ずかしくなって、多分真っ赤だろう顔で俊を睨みつけた。

「バカじゃねぇの!?お前の頭の中はヤル事しかねぇのか!」

「はぁ…うるせぇなぁ。メスブタみてぇに怒るなよ、面倒くせぇ」

「誰がメスブタだ!もう、さっさと仕事行けよ!」

男の言い争いのような声に、通り過ぎる人達が驚いた表情でオレ達を見る。
無理もない。夕方の公園通りで禁句ワード連発なオレ達は、迷惑以外のなにものでもないんだから。

そう…こうやって騒いでいると人が見てきたり集まってきたりするもので、その中には呼ばなくていい人まで呼んでしまう事をオレはすっかり忘れていたらしい。






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