京介がQueenに来て半年が経った。
あの日、京介にナンバーワンを奪われてからオレは未だに二位のまま。
雑誌に載ったり口コミなんかで名前を知られるようになって、今ではすっかり店の顔は京介になってしまった。
「ご指名は?」
「京介で」
このやり取りも何度聞いた事か。
前まで店で名前を聞く回数が多かったのはオレだったのに…。
ナンバーワンに戻りたい。
でも、京介が努力してる事も知ってる。
オレに認められたいって、少しでもオレに近付きたいって…黒服上がりのアイツは本当に頑張ってて、それをオレが一番良く知ってるのかもしれない。
「世莉、飲んでる?」
「飲んでるよ」
今日は愛が同じ店の子を連れてきてくれて、久々に京介と相席での接客だ。
愛はあの事件の後、例の彼氏と別れたらしい。
それもその筈、愛は京介に本気なんだ。それは見ていて痛々しいほど良く分かる。
愛は元々恋愛体質で、オレが担当をしてた頃から何度彼氏が変わったか分からない。その度に相談に乗ってきたけど、今回はその相手が京介なだけに気まずかったりする。
(何か、すげぇ複雑…)
オレが男じゃなかったらもう少し違った気持ちだったんだろうか…。
だって、愛は男のオレに…しかも元々金を払って指名してたオレに京介を取られた事になる。
何だかすごく変な感じだ。
申し訳ないと思う気持ちと、京介がオレに好意を寄せてくれてるという慢心。
罪悪感はあっても優越するこの気持ちは、男のオレが抱く感情じゃないと思う…。
本当に自分でも変だって思うんだ。
(それにしても…)
愛は本当に京介にべったりだ。
京介の腕を組んで、離さないと言わんばかりにくっついてる。
その様子に内心苛立ちを感じながら、今は仕事中だと自分に言い聞かせる。
こんな事でいちいち取り乱してたらホストなんてやってられないのは分かってるけど、京介も何を考えてるのか…相変わらず表情一つ変えずに紳士的に対応していて、オレははまた複雑な気持ちになる訳だ。
「ねぇ世莉聞いてよ、京介って家で猫飼ってるんだってぇ」
「へぇ、そうなんだ?知らなかった」
愛、悪い…知ってる。
正しくは京介の猫ではなく、京介の兄貴の猫らしいけど。
その猫の名前が「京介」で、そっから源氏名をとったことも聞いた。
何気に思考が一緒なのが照れくさい。
京介の本名は「斗真(とうま)」といって、元々aglaia(アグライア)というクラブの黒服をやっていた。
aglaia(アグライア)は情報誌なんかでもデカデカと名前が載ってるくらい、この辺じゃ有名な店だ。そこのオーナーが京介の兄貴で、猫の飼い主でもある。
「そういえば世莉もワンコ飼ってたよね?なぁにぃ、ホストってみんな寂しいんだ?」
「そうだよ、オレ毎日寂しくて一人じゃ眠れないんだ。愛には振られるしさ…」
「もぉ、そういう事言わない!」
「はは…」
寂しいのは本当。
この頃オレは、本当にどうかしてる。