決して広いとは言えない浴槽に二人で入ってるオレ達は、物凄くラブラブに見えるかもしれないが、ただの同僚です。
「はぁ…お前、何でそうなの?風呂くらい一人で入らせて…」
「嫌ですか?」
「…いえ…いいです、これで」
背後から首筋にチュッチュッと啄むようにキスをする京介に、もはや抵抗する気は微塵もなかった。
いや…抵抗できる体力が残ってない。
「お前さ、そんな…オレの事、好き…なんだ?」
「ええ、大好きですよ」
「だ、だっておかしいじゃねぇか、何でオレなんだよ」
絶対に口にはしないが、京介は黙っててもモテる顔をしてる。
女だって不足しなさそうだし、それだけに何でオレなのかと不思議で仕方なかった。
「京介さんは、綺麗だから…」
「はぁ!?」
綺麗なのはお前だろ…と内心思いながら京介の話を黙って聞く。
「いつも輝いてて…眩しいくらいです」
(コイツはよく平気でそんな事を言えるな…)
仕事ならまだオレだって甘い言葉の一つや二つ軽々と口にできるが、プライベートで…ましてや男に絶対言えない言葉だ。
京介はこうやっていつも当然のようにクサイくらいのセリフを吐けるから、人気も出るのだと少し納得してしまった。
「お前、根っからホスト気質だな」
「そんな事ないです。俺がナンバーワンになれたのは京介さんがいたからですよ」
「え?」
「京介さんの事が好きで…顔を見ただけで気持ちが溢れて止まらなくなるから、接客を頑張ったんです。だから京介さんのおかげ」
…なにか、オレの存在がオレ自身をナンバーワンから引きずり落としたという事か。
「バカみてぇ…」
オレもお前も、バカだ。
最初は憎くてたまらなかった京介が、どんどんオレの近い存在になっていく。
京介という名前も最初は同というだけで気に入らなかったけど、すっかり呼ぶ事にも呼ばれる事にも慣れてしまった…。
「京介さん…」
「っ…ん、くすぐったい…」
耳殻をペロリと舐められて眉を潜める。
京介の息が耳にかかり、甘い言葉がオレを刺激した。
「ねぇ…俺のことも名前で呼んで…斗真(とうま)って…」
背後から胸の先を指で捏ねられ、ぐじょりと耳の中を責められる感覚に身悶える。
普段、敬語のくせに甘える時はこうして対等に話してくるからズルイ。
「あ…ぁ…とう、ま…」
「ん…可愛い…アナタは俺を夢中にさせるのが上手ですね」
散々セックスした後でもコレだ。
コイツの言葉は見えない鎖みたいにオレを縛って、自分の元へと誘い込む。
それが分かってても拒み切れないのは、京介を…斗真を必要だと感じてるからなんだろう。
「あっ…はぁ…ッ」
でもオレは特別な関係にならない。
恋人になれば、きっとオレは斗真から離れられなくなってしまう。
今まで「恋人」というだけで特別に思えてきたのは、元々オレが恋愛体質だからなのかもしれない。
彼女ができれば彼女というだけで夢中になって、距離をとるのが下手になる。
会いたくて、傍にいたくて、自分は特別なんだってそういう実感が常に欲しくなって…。
勝手にやった事に見返りを求めて、何かあれば仕事にも支障がでる。
恋愛なんて、ホストをやってるオレには邪魔なだけなんだ。
そう…こうして体を重ねるだけの関係なら特別じゃないから近くに居られる。
本当はとっくに斗真の特別になってるのに…。
「ああっ、やぁ、はぁ…斗真、あっんぅ…」
――好き…
熱に浮かされた思考でも言えない言葉。
好きって言葉が怖いと思ったのは初めてだ。
斗真にこの事を言ったらきっとすごく喜んでくれると思ったオレは、コイツの事でいっぱいなんだって改めて感じた。
「京介さん、好きです…」
どうしよう…どんどんハマっていく。
俺のモノになれって言ってほしい。
それでも恋人になれないオレは、とことん不器用でバカな奴だと思わずにはいられなかった。