アナタはQueen | ナノ




オレがホストを始めたばかりの頃、aglaia(アグライア)というクラブで働いてるセリカというホステスと出会った。
セリカは初回でうちの店に来て、名前が似てると言う理由でオレを場内指名してくれた。

細い体に派手な容姿。
見るからにホステスなのに、話せば話すほど中身の地味さにギャップを感じる女。

セリカは控え目な性格だったけど極度の寂しがり屋で、稼いだ金はQueenに使っていた。
その頃のオレは今のような価値観は持ち合わせてなくて、自分の得になる事なら何でもでる男だった。

セリカは新人のオレでも分かるほど会う度Queenに…そしてオレにハマっていった。
高級ブランドの時計やスーツ。オレに喜んでもらいたいからと、店に来る度にそういった物を貢いで…。

セリカが貢げばオレの成績も上がる。
順位も給料も面白いほど上がっていく事が愉快でたまらなかった。


セリカはオレを欲しがった。
恋人として傍にいたいと…けどオレにはそんな気は毛頭ない。
確かにホストだって人間だ、特定の女の子と付き合ってる奴もいれば、お客と結婚した奴もいる。

けどオレは別だ。特定の女はいらないし、束縛されて面倒な事になりたくない。
その反面、あの頃のオレにはセリカ以上の上客はいない事も理解してた。

だから凄く中途半端な事をしたんだ。
気持ちは受け入れられない、でも体だけ…。
俺には枕営業だったけど、セリカにとってオレとの時間は貴重に感じていたようだった。

「好きだよ」「愛してる」

そういった言葉を頻繁に口にしては、オレの傍を離れたくないと縋る。
そういう言葉を聞けば聞くほど、セリカへの気持ちが重くなって徐々に鬱陶しさを感じ始めた。

上辺だけの関係…。
いくら気を付けても態度に出てしまう。
口にはしないが、オレの為に金だけ使えと言ってるも同然の態度だった…。


そんなある日、店にセリカから連絡があった。

「男が一人、そっちに行くかもしれない」という。
それは決して良い話ではない事だけは電話越しから感じ取れた。

電話があって間もなく、セリカの言っていた男が店に来た。
男は見るからにヤバイ奴で、ただ事じゃない雰囲気に店内は大騒ぎ。
ドレス姿のセリカが必死になって男を止めようとするが、勿論そんな事で納得すれば店にまで来ないだろう。

男はオレが世莉だと分かった瞬間、引きずるようにオレを店の外に連れ出して一も二もなく殴ってきた。

訳が分からなかった。
何でオレが殴られなきゃいけないんだと思った。

セリカの悲鳴のような声が響く。
頼むからやめてくれと泣きじゃくっているセリカが見えたと同時に、男が言った「セリカに手を出すんじゃねぇ!」という言葉に一気に色んな事が分かったような気がした。

何となく感じていたんだ。
いつか、こんなトラブルがあるんじゃないかって…。

確かにセリカは有名なクラブのホステスかもしれない。
だけど、オレや店に落とした金はセリカの給料で払いきれるものではなかったはずだ。

きっとセリカは誰かから金をもらって店に来てるんだって思ってた。
別にセリカが誰から金をもらって、誰と寝ようと関係ない。
けど男っていうのは好意を寄せてるか、よほど興味がある場合じゃないとそうそう大金は出せないもんだと思う。
セリカを独占したい男がオレに殴りかかっても可笑しな話じゃないんだ…。

だからこそ腹が立った。
中途半端に期待させて、男に安心の一つもさせてやれないセリカに。

オレが殴られたのは、セリカのせいだと思った。

そもそもホストクラブは客に金を使ってもらう所だ。
オレが頼んでセリカに指名してもらってる訳じゃない。
客がオレを選んで金を使ってるんだ。
その金がどういう物かなんてオレには関係ない…そう思ってた。


あの頃、少しでもオレに驕りや自惚れに対する羞恥があれば、あんな事にはならなかったのに…。





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