京介の顔が近付いてきて、朝日に目を細めたと同時にキスされたと気付いたのは数秒後だったような気がする。
ワインで少し酔っていたからか、またはオレが目を開けながら寝ていたからかもしれない。
じゃなきゃ、キスなんて…。
っていうか、今…「あなたが好きです」とか言わなかったか?
これは夢だ。そうだ、夢だ。そう思ってもおかしくないだろう。
オレは男で京介も男…。
「好き」という言葉は色んな人に言われてきた。
女性は勿論、ニューハーフとか。
男にも言われた事があるけど、あくまで友達としてで…京介みたいに至極真面目な顔で言われた事がなかっただけに動揺してしまった。
「お前…ホモなの?」
「違います」
またもキッパリ言い放つ京介。最早どう突っ込んでいいのか分からない。
(キスして好きって言ったよな?)
それでゲイじゃないと言うなら、やっぱりふざけてるとしか思えないだろう。
なのに京介はオレを愛しそうに見つめるから、冗談に思えなくて戸惑ってしまう。
「いや…つか…えっ?」
「信じてませんね…もう一度言いましょうか?」
「わ、分かった、分かったけど!それは同僚としてって事だろ?」
「違います…特別な意味です」
「だってお前…ゲイじゃないって…オレ、男だからな?」
「分かってますよ。俺だって正直、戸惑ってるんです…」
コイツはいつも話が回りくどい。
ホモじゃないけど、オレの事は特別な意味で好きってどういう事なんだ。
段々じれったくなってきて眉間を寄せるオレに、京介は慌てて口を開いた。
「その…あなたの事は、店に入る前から知ってました」
「あ…ああ、まあ、情報誌に載ってるからな」
「それもありますけど、ある人から聞いてたんです…」
自分の顔が強張るのが分かった。
そんなオレの様子に気付いたのか、京介は口を閉ざす。
きっとオレには酷な話だと思っての事だろうが、ここまで言われて避ける訳にはいかなかった。
「言えよ…」
「でも…」
「話せ」
大丈夫、今のオレなら聞けるはずだ。
オレが過去に犯した罪は、決して許される事じゃない。
だから聞かなきゃいけないんだ。
「お前…セリカの何を知ってる?」
さっきよりも日が昇り、朝の気配が漂う。
スーツや制服姿の人が徐々に姿を見せ始め、オレの存在が浮いてみえる時間だ。
「俺は、aglaia(アグライア)の黒服でした…」
オレと同じホストなのに、京介の存在は朝の中でも全く違和感を感じなかった。