夜は長い。
外にでると辺りはまだ暗くて、オレと京介は暫く無言のまま歩いた。
京介が何を思ってるのかは分からないが、オレは確実に動揺していた。
何で京介があんな静かな場所を選んだのか。
それは多分、先日の揉め事があったから、さすがのオレでもああいう場所で怒鳴り散らす事はないと思ったんだろう。
それは仕方のない事かもしれない。
けど、京介がそんなチンケな理由で選んだ場所というのが気に入らなかった。
そして問題は「愛は」という言葉の意味だ。
多分、今のオレはその事で頭がいっぱいなんだと思う。
京介は、オレの犯した罪を知っていると言う事だろうか。
「世莉さん、どこに行くんですか」
「……」
何処に行くかと言われてもあてなんてない。
このままタクシーに乗り込んでさっさと家に帰ってしまえばいいのに、そうする事もできずにひたすら歩く。
分かってるんだ、今逃げたって意味なんかないって事を。
京介は愛を助けてくれた。本当だったら感謝するべきなのに、今口を開けば京介を責めてしまいそうで怖かった。
「俺が勝手な真似をして、怒ってるんですか?」
「違う…」
むしろ京介がいてくれて良かったと思ってる。
もしあのまま愛が一人で部屋にいたら…そう思うと過去に自分が犯した罪をまた繰り返す所だったんだ。
「世莉さん、俺は…貴方だからやったんです」
「は…?」
「俺が何か失礼な事をしたなら謝ります、だから――」
言葉の後、背後からきつく抱き締められた。
突然の事にビックリして固まるオレの耳元で、京介が切迫した声で言った。
「世莉さんは笑っててください…お願いします」
懇願するように言われて、何故か分からないけど瞳の奥がじわりと熱くなる。
京介を跳ね除けようと体を動かそうとするけど、まるで麻痺にかかったみたいに動けなかった。
「お前…本当に何考えてんのか分かんねぇ…何、抱き付いてんだよ」
「言って、困らせたくないです」
「は…どういう意味だ?内心、オレが困ってるの見て笑ってんだろ?」
「違う」
「離せ…」
「嫌だと言ったら?」
「ふざけんな!」
「――っ!」
不意に京介の腕が離れる。
きっと京介は驚いた顔をしてるに違いない。
「ふざけんな…ッ…くそ、何でお前の前で…」
涙が止まらなかった。
拭っても拭っても何故か溢れてきて、堰を切った感情が溢れて止まらない。
「お前、一体なんなんだよ!何考えてんのか分かるように言えよ!モヤモヤして、ムカツク!」
まるで子供みたいだと思った。
どんな言葉を言えば相手に伝わるのか、普段のオレならできるはずだ。
なのに京介の前だとどうしていいのか分からなくて…何よりそんな自分に一番腹が立った。
「世莉さん…」
涙で歪んだ視界に映ったのは、初めて見る京介の顔。
徐々に近付いてきて唇が重なる瞬間、京介の背後に夕日のようなオレンジ色の朝日が見えた。
「アナタが好きです」
朝の匂いがした。
長い夜が終わる――