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「なあ、コータ」

コータ、そう呼ぶのは俊だけ。
結城 琥太郎(ゆうき こたろう)、それが俺の名前だと言うのに俊はコータと呼ぶ。
意味なんかない。ただのあだ名だ。

「何?」

ソファーに腰を下ろしながら俊を見れば、煙草に火をつけて煙を吐き出しているところだった。
俺もセトも煙草は吸わないから俊の煙草の匂いはすぐ分かる。
同時に煙草を吸う俊の姿が格好良くて、少し羨ましいと思っていた。

「コータ…オレ、女に振られたかもしんねぇ」

「は?また?」

「またって言うな。ほら、コレ…」

そう言って差し出された俊の携帯。
ディスプレイにメール画面が表示されていて、そこには絵文字一つない長文が書かれていた。

「これは…」

暫く恋愛はおろか、彼女のいない俺でも傷付く内容。
簡単に言えば「お前は自分勝手で浮気者。本気になれないくせに体だけ求めてくるな」と言った感じだ。
そして極め付きは「ヘタクソ」、コレだろう。

「お前、何やったの?」

「あっちが勝手に付き合ってくれって言ったから、付き合ってやっただけだ」

「ヘタクソって、ははっ」

「笑うな!つか下手じゃねぇし!あの女が盛ってきて、したくもねぇのにやらされたんだ」

「お前ねぇ、もう少し優しくしてやれよ。その内、彼女できなくなるよ」

「はーっ、面倒くせぇ…」

俊は溜め息を吐いて、まだ幾分も吸ってない煙草を灰皿に押し付ける。
そして間を空けずにまた同じタバコを吸うのも俊の癖。

「オレは好きでもない女に尽くすほど暇じゃねぇ。ヤリたいからヤッて何が悪い」

「酷い言い種だな」

そうは言うが俊はモテる。
セトとは違うタイプだけど、女性受けのする顔立ちをしている。
これで中身も少しは親切だといいんだけど、俊の場合は冷たい訳じゃない。
照れ隠しに怒るようなタイプだから、扱いが面倒なんだ。

俺に良くしてくれるように、彼女にもしてやればこんなメールは来ないはずなのに…。

「コータはいいよな」

「何が」

「兄貴とヤリたい時にやれるんだから」

「俊…本気で言ってる?」

「半分本気…。はー、セックスしてぇ…」

「発言だけは導火線ミリ単位だな。お前の頭の中、一回覗いてみたいよ」

俊は誰かを本気で好きになった事があるんだろうか。
そう尋ねてみたいけど、俺はどうなんだって話だ。

セトとヤッてるけど、俺は男じゃなきゃダメって事はない。
そもそもセトと関係を持つまでは性対象は女性でしかなかった訳だし、女の子は普通に好きだ。
おっぱい好きだし、ヤルと気持ちいいし、それで可愛かったら最高だとそこらの男と変わらない。

けど、本気の恋愛となると俺にもよく分からない。
人並に付き合ってきたけど、恋が始まる時も、終わる時も、いつも「こんなもんか」と感じてた。

だから俊の事を兎や角言える立場じゃないんだ。





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