平行線のゆくえ

付き合っているのか、とよく聞かれる。おまえで3人目だぜ、それ聞くの、と笑いながら返してやったら隣に座っているルナイトは一瞬だけ眉をひそめる。かと思えば興味ないような表情に戻ってだろうな、なんて返しやがる。なんだこいつ、というかなんだこいつら。こんな炎天下のなかパラソルの日陰でどうしてこいつと並んで浜辺でジェラート食わなきゃならねえんだ、先程の質問とどうしようもない熱さに少しやられちまったのか、ジェラートを運ぶ手がはやくなる。甘いしつめてえ。海からふわりと漂う仄かな塩っぽい匂いでああ、あとであいつと遊ぶって約束してたなと思い出した瞬間だった。

「ヘイルー!みて!」

にしし、と笑っているのだろう(いつもそんな感じの笑い方だ)なまえは大きく手を振りながら俺を呼んだ。海辺からすこし離れているのもあって、あいつがみて!のあと叫んでいた言葉はよく聞き取れなかったが、ギヤマスターとあいつの間にでけえ砂の塊があるのが見えて、ふたりがなにをしていたのかは一瞬でわかった。

「ねえヘイルがきてくれなかったからギヤマスターとつくっちゃったよー!砂のお城!」
「あとでいくからまってろ!」

不服そうになまえが叫ぶ。そりゃあ、あいつとの約束をすっぽかしてジェラート食ってたわけだから俺が悪い。はやめにこれ食ってそっちに行ってやるという意思表示をしてやるとあいつはまた不機嫌そうな声をあげた。

「あとじゃ遅いよー!……っああーーっ!!」

遠目でみてもわかる、砂の城に起きた惨状。なまえの高上がりな叫びとともに砂の城は運悪くきた高めの波に攫われちまって、ごっそり3分の2は削れたように見える。というか、あいつ俺が行ってたらギヤマスターでなく俺と砂遊びする気だったのか。行かなくてよかった、と思いきれないのは、きっとあいつが地球人で最もと言っていいくらいの大切な友人、だからなのか。

砂の城が崩れてやることがなくなったのか、はたまたふたりの力作を鑑賞し損ねた俺に文句を言いにきたのか、なまえはギヤマスターとわかれて一人で俺のいるパラソルまで走ってきた。水着のフリルが揺れるさまをぼうっと眺めていたら、いつの間にかあいつが目の前にいて、足元を熱がりながら俺とルナイトのあいだに座り込む。

「うまくいってたんだけどなあ」
「そうかよ」
「ギヤマスターがね、結構こういうの得意みたいで…手先、器用なんだよ!」
「ギヤマスターが?意外だな」

カキカキと笑い声を漏らしながら熱い、ヘイル冷やしてと項垂れるなまえの足を直接触ってやった。んへへ、つめたぁい、くすぐったい、と笑う顔をみたルナイトは何か言いたげだったが、どうせまたなんでもないようなことなので無視する。

あついねえ、とこんなとこにくりゃ口癖みたくなる言葉を独り言みたいに呟いたあと、なまえは俺の持っているジェラートに気づいたらしく、えーヘイルいいな!ひとくちちょうだい!と予想通りの反応をした。近くに店があるぜ、とやらない選択肢はあるはずなのに俺は素直にひとくちわけてやった。というかなまえが無遠慮にかぶりついてきた。ひとくちがでけえ!

「甘いね!」
「イチゴ味だからな」
「わたしもそれ買ってこようかなあ」
「ひとくちやったろうが!」
「これは味見だよー!じゃあちょっと行ってくる!」

半袖のパーカーを羽織ながらパラソルをでていくなまえを見送りながら、もうほぼコーンしか残っていないジェラートを一気に食い切る。包み紙をまだ隣にいやがるルナイトに押し付けてやれば、自分でやれと言わんばかりに嫌そうにゴミ袋に入れていた。

「…それで」
「あ?」
「さっきの話なんだが」
「はァ!?あれまだ続いてんのか!?」

勘弁してくれよ、と言う代わりにパラソルを出ようとした瞬間、待てと言いかけたのが聞こえて軽い怒りがまた沸いてきた。あのなあ、とため息まじりに呟く俺の次の言葉をこの野郎はずっと待っていやがる。だから言ってやった。


「あのなあ!おまえら俺が付き合ってるだのどうの聞いてくるけど俺と誰だよ!だ、れ、と、だ、よ!!」


叫んでちょっとすっきりした…と息をついた瞬間、ルナイトの持っていたかき氷がこぼれたようでバカなにしてんだよとひっぱたこうとすれば、懐疑と驚嘆のこもった目を向けられた。はァ?とまた一言言ってやろうとした、そのとき。

「いやおまえ本気で言ってるのかそれ…」

明らか俺を見るルナイトの目は驚愕の2文字をこれでもかというくらい主張しているし、なまえが可哀想だな…なんてため息までつきだしやがった。なんであいつが可哀想なんだよ!




(ギシュ~、なまえはやはりヘイルマンと付き合っているのか?)
(えっなんで!?)
(ギシュ!?)
(な、なんでヘイルなんだろって…そんな変かな?)
(ギシュシュ、いや距離感がな…)



2020.10.02



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