なにしろはじめてなもので

いいか、と耳元で声が聞こえたときには既に後ろから力加減がほどよくされているのがよくわかるように抱きしめられていて、急なことにびっくりしながらも頭の片隅にはこの後のわたしとジャスティスさんのビジョンが浮かんでしまって、顔がじわりとあつくなる。まだお昼ですよ!と言いたくなったけれどぐっと堪えた。前にこれを言ったら「何故昼間ではいけない?」と真面目な顔でじっと見つめられて答えに困り果てたのを覚えている。結局そのままベッドになだれ込んでしまったし。ああきっと今回もそうなるんだろうなという半ば諦めた気持ちと、このまましてくれるんだろうか、なんてほんのちょっと期待してしまうわたしがいる、というのがわかって、すこしお腹のあたりがむずむずした。

「だっだめです!ジャスティスさん、いまはだめ、あっ、…んう、」
「…何故」

ほんのすこしの抵抗のつもりで、ジャスティスさんの分厚い身体にわりと力を入れてトントンとタップしていたらやっと口を開いてくれた。超人なだけあって、非力な人間の女の軽いタップなんかじゃまったく気づいてくれないのだ。申し訳なくて毎回謝っていたら「蚊に刺されるほうがまだ効く」なんて言われたこともある。

「はあ、…は、恥ずかしいので…お風呂もまだで、…その……えっ、あっ……や、やめ、やめちゃうんですか?」

ジャスティスさんの大きな手が腰から離れる、という予想していなかった展開に思わず声をあげてしまった。これでもしジャスティスさんがしょんぼりしているよう表情であればまだしょうがないですね、なんて言っていたのだが、あいにくジャスティスさんはほんとうに、びっくりするほど表情が動かないひとで、滅多なことがないとまったく読み取れないのだ。それでも最近はちょっとわかるようにはなってきたが。

「何故だ?今はだめ、なのだろう、前にそのまま続行したときのなまえは私に怒ったが」
「…う…うん、そう、そうです、そうですけど…」
「わかった」

こくん、と効果音がつきそうな仕草で頷くジャスティスさん。その顔を見た瞬間にあ、これは本当にやめるやつだというのを確信した。それと同時に頭の片隅にあったはずの自分の本当の気持ちがむくむく膨れてくるのがわかって、わたし、このひとのことすきなんだなあと改めて思い知らされる。

「……………あの」
「すまなかったな」
「えっ?」
「今は気分でなかったのだろう?お前の心情を察せられなかったわたしが悪い」

えっ?と思考をめぐらすとともにほんの少しだけ曇るジャスティスさんの表情。いやあの、違くて。と訂正するよりはやく目の前のジャスティスさんは申し訳なさそうな顔になっていく。違う、そうじゃない。そうじゃなくって、

「あっあの!」
「どうした」
「じ、ジャスティスさんはわるくないっていうか…わたし、い、嫌じゃない、です…」
「…いや、無理をさせたいわけではない。嫌なら嫌で良い、わたしの都合に合わせる必要はない」
「そうじゃなくってですね…」
「?」
「う、うう…えっと…」
「…具合がわるいのか、」
「えっ」
「顔が先程より赤い、発熱か?」
「うあ、ち、違くって!ていうか近い、近い!」
「なんだ」
「あの…その、要するに…だめじゃない、…んです」
「だが先程」
「だから、さっきは…つまり…」
「…?」

わたしから本当のことを打ち明けるのは恥ずかしいから察してほしいのに、ジャスティスさんはさっぱりわからんとも言いたげな表情を崩さない。(本当にわからないのでしょうがないのだが)そういうところもすきなんだけど、それを出してほしいのは今、今じゃない!

「ああーっ!だから!わたしは今ジャスティスさんに無理やりさっきの続きをしてほしかったんです!だめっていうのは…なんていうか!いいよってことで!わっわたしは!ジャスティスさんと!あのまま!いちゃいちゃ…したかった…って…」
「…支離滅裂ではないか?」
「お、女の子ってそういうものなんです!あーっうう、恥ずかしい、うう…うっう…」
「ひとまず理解はした。泣かせてすまなかった」
「ふぅ、うう、…んっ」

ジャスティスさんはわたしの二回りはある親指でわたしの涙を拭った。拭った跡がじんわりあたたかくなる。

「だめ、は一つの了承の形、ということで良いのだな?」
「…まあ、そんな感じです」
「次からだめ、と言ったらもちろん様子は見るが基本的には辞めず続行という形で」
「そっそっそれでいいです!今は!あんまり言われると恥ずかしいので!!」

なんだかプレイを強要している女みたいですっごく恥ずかしいことをしている気がしてきた。ごめんなさいジャスティスさんに変なこと色々教えてるのはなまえです。ジャスティスさんの上司?同僚?の方々、(ジャスティスさん自身から前に何回か話を聞いたことがあるけど、あまりにも話のスケールが大きくて正直あまり覚えられていない)本当にごめんなさい…

「了解した、次から善処しよう」
「お、お願いしま…す…?」





(似たようなケースがあと15件はある)


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