2 朝、ついに今日が県大会の日なのだ。私たちはいつもより早くにいつもの待ち合わせ場所に集まった。少し前を歩くハルを見て私は海をみた 昨日の帰り、真琴と途中で別れてからは私とハルの二人で帰る。その時ハルは口を開いた 「…明日俺は凛と泳げば、自由になれるのか」 たぶん独り言のような、無意識にでたようなものだったのだろう。私はなんて答えたら良いか分からなかった。ただ、そうかもしれない、と曖昧な答えしか出せなかった 会場につけばすでに渚と怜くんがいて、私たちを見て大きく手を振った。 『4人とも頑張ってね、私コウとあまちゃんのところに行かなきゃ』 「うん、行ってらっしゃい」 「あきちゃん応援してねー!!」 『あたりまえよ!』 ふぁいとーと笑顔で手を振れば皆も笑った。うん、イケる気がする。大丈夫、4人なら 最初はフリーかららしい。それにハルは4組目。ハルの隣には凛の名前がかかれていた。このレースの順番はエントリーの申告タイム順なのだ。つまり、凛とハルは今ほぼ互角と言うことだ 渚とハルと怜くんは柵に捕まりジッとコートを見る。江はストレッチをしたり準備をしている選手の各説明をしていた。それに私もふんふんと頷きながら選手を見る。どの選手も鍛えられている感じがして強そうだ すると聞き覚えのある声がしたから聞こえてきた 「やぁ!江く〜〜ん!」 「あ、凛ちゃんのところの部長さんだ!」 「天使ちゃんも!江く〜〜ん!」 こっちに向かって手をふる鮫柄の部長さんに私も江も苦笑いした 『天使ちゃんって…』 「江にくん付けはやめてって言ってるのに…」 すると私の隣にハルが来た。様子を見るからにどうやら凛をさがしているようだ。それに気づいた真琴も「凛、居ないね」とハルに言った。「もう召集場所に向かったのかもしれない」そう言うとハルは黙ってゴーグルを持ちこの場に去って行った 『…ハル、大丈夫かな』 「大丈夫だよ、ハルなら。…ハル、勝ってこいよ」 県大会は開幕された。フリー第一組からスタートするがその迫力に驚いた。小さいころの大会となんて比べ物にならないぐらい凄い。もちろん体つきも。さっきから江がため息吐いたり興奮しているから相当なのだろう。 そしていよいよハルと凛が出る4組目が現れた。二人は隣同士のコースで一瞬でも目が話せる状態じゃないと息をのんだ 私たちは他の応援している観客に負けないようハルの名前を呼びエールを送った 『ハル!!頑張れ!!』 「ハルちゃーん!ファイトー!」 「ハル!いけー!」 「遙せんぱぁーーい!」 「遙先輩!!おにいちゃーん!頑張れえーー!!」 羽織っていたジャージを脱ぎゴーグルを付けて台に立つ。自分でも心臓の音が速くなるのを感じた。脳裏にうつるのは悲しそうな顔の凛、切ない顔をしたハル。ああ、このまま引き分けになってしまえばいいのにと私はどこかで望んでいたんだ。でもそういうわけにはいかない、どちらかが勝たなければいけないんだ。そう思い見つめると笛が鳴った ついにはじまった。フリー100mが。周りの観客もさらに湧いた。 「凛ちゃん、前より格段に速くなってる…!」 渚の言うとおり凛は早い。今見ても分かるようにハルより凛のが先に泳いでいる。 「ストローグでハルが負けてる…?」 「ターンに入ります!」 先頭を泳ぐ凛はターンに入り、少し遅れてハルもターンに入った。 『…なんか』 「え?」 『…いつものハルじゃない』 私は微かに震えた。いつもの泳ぎじゃない。なにかに縛り付けられているような、そんな感じだ。 残り50mでハルは徐々に追い上げていく 「ハルちゃんが追い上げてる!」 「ハルー!!」 「遙せんぱぁーーい!」 残り10m、5m、0…先に手がついたのは凛だった。電光掲示板には松岡凛の横には1、七瀬遙の横には2と表示された。 みんなも驚きを隠せない様子で皆が唖然した 「…ハルが、負けた?」 「そんな…」 「しかも、予選落ちなんてっ…」 こんなにも一瞬にして終わってしまうなんて…。誰も言葉を交わすことなく唖然とその様子を見つめるだけだった。あっというまに5組目にかわりスタートをしたそのとき笹部コーチが現れた 「いやぁ〜悪い!遅刻しちまった!」 「笹部コーチ!」 「なにしてたのっ!遅いよゴローちゃん!」 「遙先輩のフリーはもう終わりましたよ」 「あちゃー予選見れなかったか!でもまあ、決勝が見られればいいか!」 笹部コーチのその言葉にみんな視線を下に向けた。真琴が笹部コーチにハルが予選したことを告げると、再び会話はなくなった。 「・・・遙先輩、戻ってきませんね」 怜くんの言葉に誰もが思っていることだった。もうそろそろ戻ってきてもいいはずなのにハルの姿は全く見えない 「シャワー浴びてるんじゃないかな?」 「それにしては時間がかかりすぎなような…ボク、ちょっと見てきます」 怜くんが席をはずし行こうとするのを真琴が止めた。 「今はそっとしておこう、ハルのコトだから今はきっと誰とも話したくないんだと思う・・」 周りをよく見ていてハルのことをよく分かっている真琴の言葉には説得力があり怜くんはうかない顔だったが再び席に座った。 すると今度はバックが開始されるアナウンスが流れて真琴が召集所へ行くため立ち上がった 「じゃあ、行ってくる」 「頑張ってねマコちゃん!」 「頑張ってください真琴先輩、」 真琴は笑顔だった。きっと真琴だってハルが今どうしているか気になっているはず、それでも今は自分たちの勝負にも目を向けなきゃならない 『真琴…』 「ん?」 『頑張ってね』 真琴はうん、と微笑みまるで子供を慰めるように大きな手で私の頭を撫でた。しばらくじっとしていたけど居てもたってもいられず私は席を立った 「あきちゃん?」 『やっぱり、ハル呼んでくる。仲間の勝負はみんなで応援しなきゃだめだよ…』 「秋羅さん…」 『これからみんなは試合あるし、探してくる!』 「あ、秋羅ちゃん!」 |