クチナシと愉快なメイドたち (1/7)

 ◆のために開かれた慰労会は、彼女が眠った後、皆でワインを一本空にしてお開きとなった。
 ここに居るメンバーは酒に強いのが大半だし、幹事であるレオも二杯ちょっと飲んだだけなのでほろ酔いだしで、皆がいい気分で外へ出た。
「ういい〜、食った食った! 気分いいわこりゃァ」
「ザップさん、ほんとよく食いますね。そんな細いのに、どこに入ってくんすか」
 ぴったりとした黒いアンダーに覆われた腹をさすって満足そうにしているザップに、レオは呆れ半分、尊敬半分で訊ねる。
「ん? どこにってオメー、そりゃオメー、ナニ――」
「あ、もういいです。分かりましたんでいいですスイマセン」
「なんだ、羨ましいんですかこのヤロウ」
 インフィニットマグナムの伝説を聞かせてやらァ〜と騒ぎ始めたお猿さんを無視して、レオは上司に締めてもらおうと、クラウスたちを振り返った。
「◆は私が預かろう。このまま自宅へ一人帰すわけにはいかない」
「そうだな、クラウス。面倒掛けるが頼んだよ」
 クラウスの腕の中には、酒の席と同じく◆が心地良さそうに眠っていた。いわゆるお姫様抱っこ――ではなく、子供にする抱っこをされている◆は、クラウスの肩に頬をぴったりと寄せ、なんとも穏やかな寝息を立てている。
「なんか、いい寝っぷりっすね」
 そんなにクラウスの腕の中は心地良いのだろうか、ちょっと抱っこされてみたい気もする――いやいや、何云ってんだ、と思わず一人ツッコミしてしまう。
「やはり疲れていたのだろう。◆は自分でも気付かず無理をする……私が用心して見ておかねば」
 ふう、と息を吐く割には、それが何だか嬉しそうに見えるのは気のせいだろうか。
「じゃあ、今日はこれで解散かな」
 スティーブンが肩をすくめながらそう云ったところで、道路脇の車からギルベルトが降りてきた。
「坊っちゃま、お車の支度が済んでございます」
 うむ、と頷いたクラウスは、今夜の幹事ズに向き直る。
「チェイン、レオナルド君。今夜は楽しかった、彼女もとても嬉しそうにしていた」
 二人のおかげだ、とクラウスに正面から云われてしまうと、やはり照れるものがある。
 いやあ、と後頭部に手をやりつつ、◆さんが嬉しそうだったからクラウスさんが楽しかったのではと何となく思ってみるレオである。
「そうだな、急に設けた会だったがいい時間を過ごせたよ。僕も、二人にありがとう」
 スティーブンの言葉に、今度はチェインが少し頬を染めて笑った。
「それじゃ皆さん、お疲れ様でした!」
 そうして賑やかな慰労会は幕を閉じたのだった。



 異界都市ヘルサレムズ・ロットでは、爽やかな朝と云うものは訪れない。
 毎日がどんよりと曇っている――それは霧濃く包まれたこの街の仕様なのだが、そんな中に居ても、澄んだ空気に包まれながら目を覚ます者も居る。

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