また一興 (7/7)

「眠いのかね、◆」
「んんー……あったかい、から……くらうす、さん……」
 ◆はくぐもった声でそう云うと、クラウスの首元で深く息を吸い、
「……んー…………」
 くたりとその力を抜いた。
 そして、続いて紡がれるゆったりとした呼吸に、クラウスは◆の背に優しく手を置く。
「眠ってしまったようだ」
 ポンポン、としながら、まるで子供を寝かしつけたように安心を含んだ声音でクラウスはそう云うと、空いている手でグラスを取り、酒の続きを飲む。
「…………」
(はわわわわ……!)
 レオは時々お世話になるグラビア本を見ている時とはまた違う、何だか見てはいけないものを見ている気分になり、落ち着かない。
 クラウスが◆より年上であろうことは分かるが、二人の年齢は知らない。多分自分より◆は上なのだろうが、今の彼女はかなり幼く感じた。その行動やクラウスの態度からも、まるで子供のようだった。
 ――とは云え、二人は成人済みの男女である。
 そんな大人が距離感0の状態なのだから、向かいの席に居るレオはとにかく目を泳がせるしかなかった。
「オイオイオ〜イ? 何赤くなってんだよ、これだからドーテーはァ」
 すると、隣からケケケッと云う笑い声が聞こえてきた。
 絶対何か云われると思った、とレオが溜め息を吐けば、ビールのジョッキを持ったザップがガバッと肩を組んでくる。
「旦那と◆はいつもこんなんなんだよ、慣れろよドウテ・インモウクン」
「その呼び名なんだよ、サイテーだな!?」
「そうそう、少年。“こういうの”もお馴染みってことだから。クラウスもお嬢も、結構周りのこと気にしないから、僕らもスルーしておこうな?」
 ハハハ、と軽く笑ってから、スティーブンはクラウスを窺う。
「飲ませて寝かせようって?」
「――む、もう少し時間が掛かると思ったのだが……彼女自身も思った以上に疲れていたらしい」
「……なんと云うか、いつまで経っても過保護だなあ、君は」
 呆れ気味のスティーブンは頬杖をつきながらも、その表情は優しげだ。
「せっかく、彼女が栓を抜いたボトルだから、飲んでしまおうか」
 スティーブンはそう云って、レオの傍に置かれたままだったワインボトルを指差す。
「私がお注ぎしましょう」
 再びギルベルトがスッと立ち上がり、ボトルを手に取ると、皆のグラスに優雅な手つきで注いでいく。
「ん。じゃあ──お疲れ様、ってことで」
 クラウスの膝の上で寝息をたてる功労者へ。
 静かにグラスが彼女に上げられると、◆は軽く身じろいで心地良さそうに笑みを浮かべる。
「…………」
 チラ、とその様子に目を落としたクラウスは、◆の髪を撫で、彼女の好きな白ワインに口をつけるのだった。




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