ルイ・匿名さん
/絢さん & ルイさんリクエストの、マフィアで主従なパロです
/リクエストありがとうございました。とても楽しく、遣り甲斐あるお題でした。もっすごく長くなってしまいましたが、お付き合い頂けるとサイワイです。
/全編に渡り、軽く死ネタ・グロネタ・エロネタが入ります。細部までの描写は避けているつもりですが、苦手な方はご注意下さい。
/舞台はアレです、なんかアメリカ的などっか架空の国です。共通語は英語的な言語ということで。





 なにが悪かったのか…産まれてきたこと自体が悪かったのか。――なんて三文芝居のようなことも何度か思った。それくらい、俺たちの周りには謂れのない暴力が溢れていたし、悪意で満ちていた。
 この物語はまず、俺たちが8つの時に始まる。ある孤児院でそれはスタートするのだ。あの年の夏、俺たちはそれぞれ別の場所からそこへやってきた。ひとりは前の孤児院で素行のあまりの悪さを見咎められたことから、そしてもうひとりは自身を殴り続けたヤク中の母親がやっとこさおっ死んだことから、俺たちは、最終流刑地とも言われるあの孤児院へ送られてきた。そこはまさに、この世で最も地獄に近い場所であったと今も確信している。そう、世の中の酸いも甘いも噛み尽くした今でもそう思う…この世のどこよりも、あそこは腐っていた。
 19XX年、俺たちはあの夏、そんな地獄の中で、お互いを見付けたのだった。




 コンクリート壁に囲まれた薄暗い一室。劣化した蛍光灯は本来の明々とした輝きを忘れ、部屋の四隅に湿った暗がりをつくっている。
 刑務官から乱雑に渡された紙袋には僅かばかりの私物が。これを見るのも、そして取り出すのも、約8年ぶりである。型落ちし、とうに契約の切れた携帯電話。12時半を指して針の停止した腕時計。金なんて入ってない薄っぺらな財布。拉げて、どう見ても黴びた煙草。錆びたライター。なんとか虫に喰われず無事だったかつての自分のスーツを纏って、静かにそれらをポケットへと収めていった。いつもポケットに入れるものも入れる位置も決まっていたが、この動作をするのも随分久しぶりで、なんだか身に馴染まない。スーツも、オーダーメイドだったはずが、僅かばかり身体に合っていないように感じた。それは自分が痩せたからだった。
 8年。8年間という長さ。その長い時間をこんな檻の中で生活すれば、それは筋肉も落ちることだろう。久しぶりのネクタイは上手く結べなくて、結局ポケットへと突っ込んだ。
 無表情の刑務官たちに見送られながら。目の前で鉄製の檻が解錠されるのを待つ。そして青銅の扉。ここをくぐれば、晴れて自由の身、というやつ。特に感慨もなく外の世界へと踏み出した。重い錠が再び背後で降ろされる。振り返った先には、高く険しいコンクリート塀。その上の有刺鉄線。内から見上げていた時と、そう変わらない景色。しかしそれでも今いるのは内ではない、正真正銘の"外"だった。
 遠目に一台の車が見える。そちらの方に向かって行きながら、煙草を取り出しかけてしかしそれがとうに湿気っていることを思い出した。カビ臭いあの室内の臭いのするかつての愛飲の煙草。箱を潰してそこらの草むらに投げ捨てた。そしてついでに、ポケットから尾を伸ばしていたネクタイも放り落とす。
 荒野に。なにもない荒野にポツンと建つこの刑務所で。陸の孤島とうたわれるこの場所で。8年間は過ぎ去っていった。監獄の中に時などという概念はない。檻の中の時は、常に停止したままである。しかしそれに構わず外の世界は時間を進める。俺の知らない間の、8年間。あらゆる物事が様変わりしたことであろう。――それでも、少なくとも迎えの車が来るくらいにはぎりぎり浮き世に繋ぎ止められているらしい。
 俺は財布も携帯も放り投げると、なにも持つものを失くして車に乗り込んだ。

 会話がある訳もなく、車は滑らかに発進するとエンジンの音だけを響かせて長い道のりを行った。辺りの景色がただの荒野から、ぽつりぽつりと"街"へと変わっていく。寂れたストリート、そして放火痕のように薙ぎ倒され炭の積もった雑木林、街とも言えぬ侘しい田舎町を抜けると、外れの丘へと出た。その向こうに、木々に埋もれるようにして一軒の古い家屋が見える。外観からだけでも、長く人が住み着いていないことが分かるボロの家。
 緩やかに停車する車、エンジンを切らぬままにちらりとこちらを見て寄越した運転手が、無言のままに下車を促した。
 長過ぎるドライブ。車に乗り込んで半日以上が経過していた。一夜を過りすでに外は朝日を昇らせている。その間一度も振り返ることのなかった運転手の顔を、俺は知っているような気もしたし知らないような気もした。たとえかつて知っていたとしても、8年もあれば人の顔は変わる。そして変わるのは容貌ばかりではない。
「コヨーテから伝言だ」
 エンジンの音に紛れるような低い声で、運転手は言った。とても陰鬱で、到底いい気のしない声音である。
「"Welcome back, Raven. Wait for me."」




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