/サード・デイ

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 the after dark

 食事を終え、黒子家の面々と別れを告げ、俺たちは夜のマンハッタンを走っていた。
 食事の間も、主役はチビだった。楽しそうに、あいつが知っている限りの言葉を尽くして俺たちとの数日間をテツとさつきに熱心に報告していた。そうやって話す内容に、俺たちも長いようでほんとうに短かった、チビとの日々を思い返していた。
 最初チビを預かることになった時、俺は大丈夫かな、と心配していたんだ。2泊とかそんな長い間、俺はうまくやっていけるかと。しかしそんな心配は、全くの見当外れだった。
 一生懸命に話して、食べているチビを見て俺は心からの愛しさや優しさを感じる。人に向ける感情のなかで、この気持ちははじめて感じるものだった。友人達に向けるものとも、黄瀬に向けるものとも違う。これはきっと、小さく幼いいのちに真実の意味で出会った時、芽生える感情なのだろう。その心を俺は、驚きながらも喜ばしく、受け入れていた。

 これまで俺は、俺に"自分の子供"がいると言う状態を、うまく想像出来てこなかった。第一真剣にそんな事考えたことすらなかった。俺に子供なんて、そんなそんな縁遠い事、そうどこかで思っていた。
 だって、俺たちは。おれたちは、おとこどうしなのだから。

 俺たちの関係に子供が誕生し得ないことなど小学校の保健体育のころより常識としてずっと知っている。俺たちにとってそれはもう当たり前の事だ。そういった事を気に止んだり、子孫を残せない事に負い目を感じるような時期はもう過ぎた。これはすでに、もっと若い頃に経験した悩みだ。今はもう、それの何をも越えて、黄瀬を愛し続けるだろう自分に納得している。黄瀬にもそれを、十分伝えているつもりだ。
 俺が吐き出した精液がコイツの腹んなかで特に役目も果たさずいることを虚しく思わないのかって?そんな言葉、見当違いも良いとこなんだ。
 俺の精液は黄瀬の身体に溶け込んで、そうして大事な大事な俺の愛を余さずに伝えてくれている。立派に役目を、果たしている。その事を誰にも、馬鹿にさせやしない。
 ルーフの閉じられた車内で。運転席に収まった黄瀬を眺めて。夜のNYのきらびやかなネオンをその頬に反射させた、存在を見詰めて。
 ああ、俺はこれが愛しい。どうしようもなく恋しい。I love you, I miss you. この言葉をどれほど繰り返してきて、そしてこんな言葉なんかじゃ表現し切れないと思ってきただろう。俺は今日、気が付いてしまった。どの恋人達も、どの夫婦たちも、こうやって言葉だけでは相手への愛を伝えきる事が出来ないから、だから子供は産まれるんだろうと。それは、世界で一番愛に溢れているべき存在だ。そうなのだ、――――俺はこのことを、すこしだけかなしい、と思う。
 虚しい訳ではない。卑屈になっているとか、そういう訳でもない。そのどれもが、ちょっとだけ違う。
 ただ少しだけ"悲しい"ということは分かる。やはり俺たちには出来ぬことなのだな、と再確認する。


 特注サイズのベッドに黄瀬を横たえて、これまで幾度も繰り返してきた動作のようにゆっくりと伸し掛かる。このベッドを住処にしているのは俺と黄瀬のふたりきりに他ならない。そこに+αが加わる事など、ただの夢物語なのだ。昨晩はたまたま、それが叶ってしまっただけ。
 目の前の男の名前を呼ぶ。きせ、きせ りょうた。そして黄瀬は俺の名前を呼ぶんだ。
「あおみねっち」
「ああ、」
 嗚呼、その声に応えるように。深く交わる事を望んで、熱いキスを俺は落とした。


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